3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜

「……やはり、楓様のご結婚は避けられないのですね……」

だから、そんな方に対して、こんな利己的な愚痴を言ってはいけないと思いつつも、白鳥様のお顔を見ると何故か気が緩み、そんな弱い自分が漏れ出てしまった。

「……そうですね。恋愛感情云々は抜きにして、これは前々から計画していることであって、こうなる事はあの方も強く望んでいます。なので、よっぽどの事が起きない限り、この話が覆されることは先ずないでしょう」

そんな私の不満を白鳥様は嫌な顔する事なく真摯に受け止めて頂き、静かに諭してくる。
その話は重々承知の上だったけど、改めて人に言われてしまうと心が締め付けられて、息苦しさを感じてしまう。

すると、白鳥様は突然私と距離を詰めてきて、耳元にそっと顔を近付けてきた。

「けど、ここだけの話。正直な気持ちを申し上げますと、その“よっぽどの事”を私は密かに期待しているんですよ」

そう小声で耳内をしてきた内容に私は衝撃を受け、大きく目を見開くと、暫くその場から動く事が出来なかった。

「では、後はよろしくお願いします」

しかし、白鳥様は固まる私を気にする事なく、軽く一例をすると踵を返してそのまま足早に来た道を引き返していったのだった。


一方、私は楓様のキャリーケースと共に未だにその場所に留まったまま、暫しの間立ち尽くす。

あの白鳥様が仰った期待というのは、私に対して向けているものだと思っていいのだろうか……。
だとすると、このまま私は楓様に突き進んで欲しいということになるのでしょうか。

御子柴マネージャーにも、これまでと変わらず私の思うがままにして良いと仰って下さった。

例え、それによって自分の身が危ぶまれようとも。

白鳥様も御子柴マネージャーも、私と同じように皆楓様の幸せを願う想いは一緒。

そう思うと、段々と力がみなぎってきて、私は拳を強く握りしめた。

果たして自分が何処まで出来るのか分からないけど、まだお側に居ることが許されるのなら、手を伸ばし続けたい。

もうこの気持ちが楓様に知られてしまっても構わない。寧ろこの愛情が伝わって欲しいとさえ思う。

それで楓様のお心に触れる事が出来れば。彼にもっと影響を与える事が出来るのなら。
私は惜しみなく、自分の想いを見せて、全てを伝えていきたい……。