3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
3121号室の扉を閉めてから、私は背中をくっつけてその場で項垂れるように深い溜息を吐く。

何だかこの体制を取るのも久しぶりな気がする。

最初の頃はいつも楓様に振り回されて、毎回この部屋の前で立ちすくんでしまった。
けど、もうそんな事はないのだろうと思っていたのに……。


あの苦しそうな表情で仰られた言葉の意味は一体どういうことだったのか。

肩を揉んだ時、手を繋いだ時、そして先程の行為。

全て私が楓様に触れていることが、彼を苦しめている要因とでもいうのでしょうか。

……だとしたら、それはつまり……。

こんな自惚れた考えなんてしたくはないけど、もし、それ程までに私はあの方に何かしらの影響を与えているということであれば。

そうだとしたら、純粋に嬉しいけど、楓様はそんな私の存在を全力で拒むように、突き放してきた。

何故あんな急変されてしまったのかは分からないけど、もしかしたら、これ以上他人に踏み込まれたくないのかもしれない。

そう思うと、瀬名さんにフラれた時のような、もしくはそれ以上の悲しみが襲ってくる。


どんな状況になろうとも、全てを投げ打ってまで楓様のお側に仕えたい一心でここまできた。

そして、それがようやく実を結び始め、距離が近付いてきたと思っていたのに……。

全てを覆され、振り出しへと戻ってしまったような状況に、私は段々と目に涙が溜まり始める。


もうどうしたらいいのか分からなくなってきた。

どんなに近付こうと躍起になっても、ああして拒絶されてしまうのであれば、もうこの感情は綺麗に取り除いて、ただの専属バトラーに戻らなくてはいけないのか。

結局楓様の闇を振り払うことが出来ず、このまま大人しく彼の行く末を見守っていくという、本来の姿に戻るべきなのか。


そう思い始めた途端、堪えていた涙はタガが外れたようにどんどんと溢れ落ち始め、私はその場で暫く動くことが出来なかった。
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