3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜

◇◇◇


「っあ、おかえりなさい。大丈夫……じゃないみたいだね」

顔面蒼白の満身創痍で、足元が覚束無い状態のままフロントへと戻ってきた私の姿に、瀬名さんは引き攣り笑いを浮かべる。

「せせせせ瀬名さん、あああああれは一体、どどどどどういう事なんでしょうか？」

「うん、天野さん落ち着いて。とりあえず一旦深呼吸しよう」

先程見た光景が頭にこびり付いていて、一向に体の震えが治らず、まともに喋る事が出来ない私の両肩を瀬名さんは宥めるように優しく掴んでくれた。

一先ず、彼が言うように、私は深呼吸を何度かして気持ちを落ち着かせる。

「やっぱりさっき君には伝えとくべきだったかな。たまに東郷様からルームサービスの注文が入る時にそういうことがあるんだ。しかも、届ける前には既に行為に及んでいて、こっちの存在はまるで無視。……まあ、お客様だし、しかも東郷グループの御曹司だから俺らは何も言えないんだけど……」

ようやく私が平常心に戻ってきたところを見計らって、浮かない顔でぽつりぽつりと事情を説明してくれた瀬名さん。

「実は、それで精神的に参って辞めちゃった人がいてね。その代わりに天野さんが抜擢されたらしいんだけど……。実力は申し分無いのは分かるけど、君みたいな人を選ぶのも俺はどうかと思うよ」

そして、憐れむような目を向けられて聞かされた話に、私は言葉を失ってしまう。


……何という事でしょう。

おそらくその方は箱入りで育ってきた私よりも、きっと人生経験は豊富でいらっしゃるのでしょうけど……そんな方でさえ耐えられないなんて。

社会人になって、初めてまともに男性と接する事が出来た恋愛経験値皆無の私は、一体どうなってしまうのでしょうか。

既に先程の営みが衝撃的過ぎて、恐らく今夜は眠れない状態に陥りそうだというのに……。