3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
第13話.おうちデート
__それから一週間後。
私は待ち合わせ場所である最寄駅のロータリー前で、一人落ち着かない様子で一定時間毎に辺りを見渡した。
約束の時間が迫り、もうすぐ会えると思うと先程まで安定していた鼓動が徐々に忙しなくなっていく。
あれから私達のスケジュールを確認し合ったら、幸いにもたまたま次の土曜に休みが合い、思っていたよりも早く予定が組めたことに喜びが増し、それからは美味しいオムレツの作り方を色々調べて研究に勤しんだ。
それから、メインは無難にパスタにして、細かい内容は楓様の好みに合わせていこうと思い、これからスーパーで一緒に食材を選ぶ事を想像するとつい顔がニヤけてしまう。
そして、その後は初めて楓様のご自宅にお邪魔して、手料理を振る舞って、昔のアルバムを見たりして……。
これぞ正におうちデートというものなのでしょう。
それ以外に世の恋人達は他にどんな事をされているのか。
男女間の事情には全く縁がなかった私にはよく分からず、まだ時間もあるので試しに検索してみようと携帯を鞄から取り出す。
ネットで単語を入力すると、ご丁寧にページのトップに箇条書きで書かれていて、私は上から順に目を通してみた。
始めに記載されているのは、映画鑑賞、それからドラマや動画を見る、ゲームをする、お酒を飲むなど。
なるほどと思いながら、下の方の項目に目を通した瞬間、私は目を大きく見開きその場で固まる。
“一緒にお風呂に入る”、“カップルらしくいちゃいちゃする”
その衝撃的な内容に、驚きのあまり危うく手に持っていた携帯を落としそうになってしまった。
なななな、何ていう事でしょう。
こここ、これが世の恋人達のおうちデートというものなのでしょうか。
しかも、カップルらしくいちゃいちゃとは?
この前みたいに抱き締め合ったり、キスしたりとかそういう事なのでしょうか?
それに、一緒にお風呂に入るなんて、つまりはお互い生まれたままの姿で一つの浴槽に入るということであって……。
まさか、いちゃいちゃとはキス以外の事もあるというのでしょうか!?
つい先程までは和やかな気持ちで見ていたのに、後半になるにつれて刺激が強くなり、頭がパニック状態になった私は徐々に体が震えてくる。
その時、前方から車のクラクションが鳴り響き、私はそこではたと我に返った。
顔を上げてみると、いつの間にやら目の前には黒光りした高級そうなSUV車が停まっていて、窓越しからこちらに視線を向けている楓様と目が合う。
「す、すみません気付かなくて!」
私は慌てて車に駆け寄ると、扉を開けて助手席に座りシートベルトを締める。
「もの凄い形相で携帯見てたけど、何かあったのか?」
そんな私を不思議そうな面持ちで尋ねてきた楓様の言葉に、思わずぎくりと肩が震えてしまった。
「い、いえ。ちょっと調べ物をしていただけですから」
兎に角、内心焦っているところを何とか悟られないようにと、邪念を振り払い私は笑顔でその場を取り繕う。
「あっそ。それじゃあ、とりあえず先に近所のスーパー寄るから」
楓様はそれ以上踏み込む事なく、視線を前に戻すとギアーを入れて車を発進させた。