3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「道具はこんなものですかね。あとは食材ですが……この量だと一回お会計して車に詰んでからの方が良さそうですね」
一通りカゴに入れ終わると、やはり一つ一つが嵩張るため、既に溢れんばかりの状態になってしまい私はその量に少しだけ圧倒されてしまう。
「それじゃあ、ちょっと行ってくるから店の前で待ってろよ」
すると、楓様はカートを引いてさっさとレジへ向かおうとするので、私はそれを慌てて追いかける。
「嫌です。私もご一緒させて下さい」
ただでさえ楓様と過ごせる時間は貴重なのに、一分一秒でも長く側に居たいが故、離れたくなくて思わず服の袖を掴んで引き留めてしまった。
「わかった」
そんな私をとても温かい眼差しで見返してくると、楓様は私の歩調に合わせてレジへと向かう。
それから会計を済ませたあと袋に詰めるだけのものは詰めて、カートを押したまま車まで運ぶと、トランクに買い揃えた調理器具を積んでから、私達は来た道を引き返した。
「……そういえば。ご自宅に食器類はありますか?」
ようやく食材の買い出しに行けると思った瞬間、ハッと気付いた私はまさかと思い、恐る恐る楓様に尋ねてみる。
「ああ、確かに。スプーンとフォークは一人分ならあるけど、食器は平皿一枚ぐらいしかないかもな。あとはこの前買ったグラスとマグカップが一つあるくらいか」
楓様は顎に手を当てて宙を見ながらそう答えて下さった内容に、私は確認して良かったと心から思った。
本当に、この方はどこまでも生活感がないのでしょうか。
というか、あまりにも物が無さすぎて、一体ご自宅がどんな風なのか、ある意味恐ろしくなってくる。
「と、とりあえず。食材の前に食器も買い足しましょう」
流石にフライパンや鍋のままお出しするわけにはいかないので、私達は再び調理器具コーナーへと戻り、必要最低限の食器をカゴに入れると、これでやっと食材に手をつけることが出来、私は一先ず胸を撫で下ろす。
そして、改めて胸を躍らせながら手始めに生鮮食品売り場へ足を運ぶと、沢山の種類の野菜が並ぶ前で私達は立ち止まった。
「メインはパスタにしようと思っているんですが、楓様は何味がお好きですか?」
「だから、様は止めろって言ってるだろ」
浮かれ気味に食材を見ていたせいで、無意識に自然といつもの呼び方をしてしまい、すかさず鋭い眼差しを向けられ制されてしまった私は、慌てて片手で口を塞ぐ。
「すみません。“さ”まで同じなのでつい流れで……」
様呼ばわりが完全に染み付いてしまった為、今更変えるのもの至難の業だと思いながらも、とりあえず呼び方には気をつけねばと。
これからはしっかりと意識付けていくことを心に誓う。
「好きな味か……。辛めなのがいいかな。あとは魚介系とか。とりあえず、くどくないやつがいい」
それから、楓様は私の質問に対して真剣に考えて下さると、ぽつりぽつりと答えて頂いた内容に、私は脳内でメニューを組み立てる。
「それではシーフードペペロンチーノにしましょう」
メインが決まれば、あとは生野菜のサラダに、楓様のご希望であるウインナーと入りのオムレツを加えれば完璧。
私は密かにガッツポーズをすると、今度はそれに沿った食材を選ぶために、必要な野菜を手に取り始めた。