3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
チェックアウトの時間が過ぎ、後輩の桜井さんと各部屋の備品を準備していると、珍しい自分の名前を指摘され、私は気恥ずかしくなりながら彼女に由来を説明した。
「……へえー、そうなんですか。でも、今どきそれを律儀に守り続けるなんて凄いですね。美守先輩年上なのに私にずっと敬語ですし」
桜井さんは思いの外由来の意味が重かったのか、驚きのあまり大きく目を見開いた後、今度は尊敬の眼差しをこちらに向けてくる。
「そ、そうですね。小さい頃から躾けられていたので、人と話す時は敬語の方が落ち着くんです」
人に褒められこそばゆい気持ちになっていく私は、それを悟られないように誤魔化しながら、引き続きアメニティセットを各部屋毎にまとめていった。
ここは都内の一等地に建てられた、国内屈指の財閥である東郷グループが経営する一流ホテル。
階層で一般区域とVIP区域がはっきりと分かれており、VIP階層には著名人や全国の資本家の方々がよく利用していて、海外からのお客様も多い。
そんな立派なホテルに就職してから早五年目。
今は一般階層のルームサービス係として、あくせく働いている。
仕事も大分慣れてきたし、職場内は皆んな優しい方達ばかりで、桜井さんみたいな可愛い後輩も出来た。
仕事については厳しい面も多々あるけれど、それ以上にサービスを受けた人達の喜ぶ顔を見たら、そんな辛さは何処かへと吹っ飛んでしまう。
それぐらいに、人に尽くす事が生き甲斐の私にとっては、このホテルマンという仕事は天職と呼べる程充実していた。