3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
◇◇◇
「はい。どうぞ」
お昼ご飯を食べた後、二人で食器を片して洗い物まで終わらせてから一息付くため、私は食後のフルーツと今日はいつもと違うブレンドティーを用意して楓様に差し出す。
「ありがとう」
窓際のソファーに座りながら、楓様は笑顔でカップを受け取って下さると、ゆっくりと味わうようにお茶を飲んでから、小さく息を吐いた。
「すっかりお気に召して頂いたみたいで良かったです」
あれから、楓様の方からブレンドティーを希望して下さるようになり、私は上機嫌になりながら、自分も彼の隣に肩を並べて座り、湯気立つカップを持って口に運ぶ。
「美守が選んでくれたものだし、こうして一緒に飲むと更に落ち着くっていうか……」
楓様は少し恥じらうように視線を私から外して口籠るその姿に、またもや母性本能をくすぐられてしまい、私は今すぐにでも抱き締めたい衝動を何とか堪える。
自分がこんなにも積極性のある人間だったなんて。
これまで男性とお付き合いをしたことがなかったので全く分からなかったけど、楓様と接する度にもっと触れていたい欲求が溢れ出てきて、自分はこんなにも貪欲なんだと改めて思い知らされる。
「そういえば、最近お煙草は吸われないのですか?」
すると、ふとローテブルに置いてあった灰皿に目がいき、ここのところ喫煙している姿を全く見なくなった事に気付いた私は何気なく尋ねてみた。
「職場ではたまに吸ってるけど、美守の前じゃ吸わない。匂い嫌いだろ?別にそこまで依存してるわけでもないし、いい機会だから止めようかとも思ってるよ」
そんな私の問いかけに対し、とても穏やかな表情で答えて下さった楓様の言葉に私は軽い感動を覚える。
お酒の代わりにブレンドティーを飲んで下さったり、自分の為に煙草も止めようとして下さったりと。
ここまで私に合わせて頂き大切にしてくれている楓様の心遣いに、申し訳ないと思いつつ感謝の気持ちが溢れ出し、私は楓様の肩にそっと自分の頭を乗せる。
「お気持ちはとても有難いですが、楓さんの喫煙される姿はとても格好良いので見ているのは好きなんですよ」
そして、愛しさからつい本音を漏らしてしまい、言った後から急激に恥ずかしさが込み上がってきた。
「……美守がそう言うなら、時と場合によってだな」
楓様もストレートな言葉に照れを隠しきれなかったのか、少し耳が赤くなりながらそう仰ると暫く変な沈黙が流れ始める。
「とりあえず、アルバム持ってくるから少し待ってろ」
それから、その微妙な空気を断ち切ろうとしたのか。楓様は急にソファーから立ち上がると、奥の部屋へと向かい、程なくしてA4サイズくらいの古びた四角い黒色の箱を持って戻ってきた。
それをテーブルに置き、再びソファーに座り直してから何やら神妙な顔付きになっていく様子に、私は段々と不安を感じ始める。
「楓さん、どうされたんですか?」
一向に箱を開けようとしない彼に堪らずそう尋ねると、楓様は小さく溜息を吐いて、その黒い箱を思い詰めるようにじっと見つめ始めた。
「この箱は東郷家に引き取られる時、実家にあったものをそのまま持ってきたやつなんだ。幼い頃はたまに見返していたけど、それからもう二度と開ける事はないと思っていたから……」
そう重々しく語って下さった話が心にずしんと響く。
その言葉は、言わずもがな楓様のこれまでの心境を表していて、徐々に胸が締めつけられる思いに私はつい拳を握ってしまう。
きっとこの箱には、お母様の思い出が沢山詰まっているのでしょう。人の愛や温もりと一緒に。
けど、東郷家の異端児になってからその中身は辛いものでしかなく、ずっと目を伏せていたのかもしれない。
それを今この場で開くのは彼にとってどういうことなのか。全てを分かることは出来ないけど、箱を見ている楓様の琥珀色の瞳は弱々しく揺れていて、私は心配のあまり思わず彼の手を握る。
「……大丈夫だよ。ちょっと感慨深いと思っていただけだ」
そんな私を宥めるように、今度は穏やかな優しい笑顔を見せると、楓様は黒い箱に手を伸ばしてそっと蓋を開けた。
「はい。どうぞ」
お昼ご飯を食べた後、二人で食器を片して洗い物まで終わらせてから一息付くため、私は食後のフルーツと今日はいつもと違うブレンドティーを用意して楓様に差し出す。
「ありがとう」
窓際のソファーに座りながら、楓様は笑顔でカップを受け取って下さると、ゆっくりと味わうようにお茶を飲んでから、小さく息を吐いた。
「すっかりお気に召して頂いたみたいで良かったです」
あれから、楓様の方からブレンドティーを希望して下さるようになり、私は上機嫌になりながら、自分も彼の隣に肩を並べて座り、湯気立つカップを持って口に運ぶ。
「美守が選んでくれたものだし、こうして一緒に飲むと更に落ち着くっていうか……」
楓様は少し恥じらうように視線を私から外して口籠るその姿に、またもや母性本能をくすぐられてしまい、私は今すぐにでも抱き締めたい衝動を何とか堪える。
自分がこんなにも積極性のある人間だったなんて。
これまで男性とお付き合いをしたことがなかったので全く分からなかったけど、楓様と接する度にもっと触れていたい欲求が溢れ出てきて、自分はこんなにも貪欲なんだと改めて思い知らされる。
「そういえば、最近お煙草は吸われないのですか?」
すると、ふとローテブルに置いてあった灰皿に目がいき、ここのところ喫煙している姿を全く見なくなった事に気付いた私は何気なく尋ねてみた。
「職場ではたまに吸ってるけど、美守の前じゃ吸わない。匂い嫌いだろ?別にそこまで依存してるわけでもないし、いい機会だから止めようかとも思ってるよ」
そんな私の問いかけに対し、とても穏やかな表情で答えて下さった楓様の言葉に私は軽い感動を覚える。
お酒の代わりにブレンドティーを飲んで下さったり、自分の為に煙草も止めようとして下さったりと。
ここまで私に合わせて頂き大切にしてくれている楓様の心遣いに、申し訳ないと思いつつ感謝の気持ちが溢れ出し、私は楓様の肩にそっと自分の頭を乗せる。
「お気持ちはとても有難いですが、楓さんの喫煙される姿はとても格好良いので見ているのは好きなんですよ」
そして、愛しさからつい本音を漏らしてしまい、言った後から急激に恥ずかしさが込み上がってきた。
「……美守がそう言うなら、時と場合によってだな」
楓様もストレートな言葉に照れを隠しきれなかったのか、少し耳が赤くなりながらそう仰ると暫く変な沈黙が流れ始める。
「とりあえず、アルバム持ってくるから少し待ってろ」
それから、その微妙な空気を断ち切ろうとしたのか。楓様は急にソファーから立ち上がると、奥の部屋へと向かい、程なくしてA4サイズくらいの古びた四角い黒色の箱を持って戻ってきた。
それをテーブルに置き、再びソファーに座り直してから何やら神妙な顔付きになっていく様子に、私は段々と不安を感じ始める。
「楓さん、どうされたんですか?」
一向に箱を開けようとしない彼に堪らずそう尋ねると、楓様は小さく溜息を吐いて、その黒い箱を思い詰めるようにじっと見つめ始めた。
「この箱は東郷家に引き取られる時、実家にあったものをそのまま持ってきたやつなんだ。幼い頃はたまに見返していたけど、それからもう二度と開ける事はないと思っていたから……」
そう重々しく語って下さった話が心にずしんと響く。
その言葉は、言わずもがな楓様のこれまでの心境を表していて、徐々に胸が締めつけられる思いに私はつい拳を握ってしまう。
きっとこの箱には、お母様の思い出が沢山詰まっているのでしょう。人の愛や温もりと一緒に。
けど、東郷家の異端児になってからその中身は辛いものでしかなく、ずっと目を伏せていたのかもしれない。
それを今この場で開くのは彼にとってどういうことなのか。全てを分かることは出来ないけど、箱を見ている楓様の琥珀色の瞳は弱々しく揺れていて、私は心配のあまり思わず彼の手を握る。
「……大丈夫だよ。ちょっと感慨深いと思っていただけだ」
そんな私を宥めるように、今度は穏やかな優しい笑顔を見せると、楓様は黒い箱に手を伸ばしてそっと蓋を開けた。