3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
その中には深緑色の重厚な造りの冊子と併せて、何枚かの手紙や折紙で作ったお花や鶴、ちいさなくまのぬいぐるみが入っていた。

楓様はアルバムを取り出し中を開いて見てみると、そこにはとても幼い楓様と、その隣には今の彼と瓜二つな女性が肩を並べて笑顔で写っている写真がいくつも貼られている。

「まあ、なんて可愛らしい。それに、お母様は凄くお綺麗な方だったんですね。楓さんとよく似ています」

幼少期の楓様の笑顔はまるで天使のようで、今でも笑うとその後気なさが残っていて、私は暫く彼の幼い姿にうっとりしながらも、その横に映るお母様のお顔が想像以上に楓様とそっくりで、思わず感嘆の声をもらす。

「俺的にはこんな女みたいな顔全然嬉しくはないけどな」

しかし、楓様は不満気な表情で漏らしてきた愚痴に対し、一体その容姿でどれだけの女性が虜になっていることやらと。女性でも羨むような天性の美貌をお持ちなのに、なんて贅沢な話なのだろうと少しだけ嫉妬してしまった。

「それにしても、お母様は本当によく笑うお方なんですね、どの写真も素晴らしい笑顔です」

見てるとこっちまでほっこりとした気持ちになれる、屈託のない心から楽しんでいるような表情。

なんて、とても幸せそうなお二人なのでしょう。

どの写真を見ても、自ずとそう感じることが出来て、楓様がいかに愛されていたのかがよく伝わってくる。

そんな方を失い、東郷家の異端児として育てられてきた当時の彼は、一体どれ程の悲しみと苦しみを背負い続けていたのだろうか。

ご自分の幸せを諦めて、この部屋のように心が空っぽのまま、彼はこれまで復讐のために躍起になって働いていたというのだろうか。

出会った当初から振り返っていくと、今こうして心から笑って下さることがどれ程大切で貴重なことなのか改めて思い知った気がして、余計に愛しさを感じてしまう。


楓様は幼少期の頃の記憶は殆ど残っていないらしく、それでも写真を見てはふと思い出した昔話を懐かしそうに語って下さったり。
アルバムいっぱいに残されたお母様との思い出を二人で眺めながら次のページを捲ると、そこには“七”という数字の蝋燭が立ったバースデーケーキを前に満面の笑みでピースする楓様の写真で終わっていた。

……これが、お母様との最後の写真。

この七歳の誕生日を迎えてから悲劇が始まるなんて、きっとこの当時の彼はそんな事は知る由もなかったのだろう。
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