3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
第14話.貪欲
___翌朝。
私はいつものように出勤の身支度をするため、洗面台で顔を洗おうと鏡を見た瞬間、あるものが目に留まりそこで動きが固まってしまった。
それは、うなじから首元全体にかけて広がるいくつもの赤い斑点。
昨晩は楓様との甘い時間にずっと浸っていたので全く気付かなかったけど、今見ると一目で分かる程に存在を主張している。
その瞬間、野生的だった昨日の楓さんの姿が脳裏に浮かび上がり、私は恥ずかしさのあまり思わず目を背けてしまった。
「……こ、こういう事だったのですね……」
そして、この斑点は以前泉様の首元に付いていたものと同じであることを思い出し、私はあの時自分がいかに無知で世間知らずだったかを改めて思い知らされる。
しかも、自分に付けられたものは、虫刺されというよりも全体的に青あざに近い程色濃く残り、そこから楓さんの執着が感じ取られた。
まるでマーキングをされてしまったような、自分は楓さんの所有物であることを示されたような……。
……いや、私は何て端ない考えをしてしまっているのでしょうっ!
どんどんと膨らみ始める妄想を食い止めるため、私は一人思いっきり首を横に振る。
本当に、昨日一日で楓さんによって沢山の初めてを経験してしまった。
世の中にあんな気持ちの良いキスがあったなんて。
情欲的な楓さんはあんなにも荒々しく変貌してしまうなんて。
あの時の出来事を振り返ると、体の奥がじんわりと熱くなってきて、恍惚とした気分に支配されていく……。
……だから、私は何て淫らな考えをしてしまっているのでしょうかっ!
またもや、よからぬ方向へ思考が飛んでいこうとするのを、私は慌てて現実世界へと意識を引き戻す。
昨日はあれから日が暮れるまで楓さんとおうちデートを満喫した。
豪華なシアタールームで映画を一本観たり、ルーフバルコニーで都内の夜景を二人で眺めたり。
普通じゃ味わえない夢のようなひと時に、思い出しただけでも胸が高鳴り顔の筋肉が緩んでしまう。
しかも、今度は二人でドライブデートをしようという約束までして。
それから毎日が楽しくて、輝かしくて、恋人が出来るとこんなにも人生は変わって見えていくものなんだということが、初めて分かった。
素直にそう思えるのも、全てはあの一言があったから。
例えこの先何があろうとも、私は楓さんをずっと信じ続ければ良い。
そう確信したら、これまでの胸の突っかかりが取れて、安らかな気持ちになれて、今がこんなにも幸せだと純粋に感じることが出来る。
人から愛される喜びはさることながら、人を信じる喜びと強さも私は楓様から教わって、愛しいだけでは言い表せないくらい、私にとって彼は掛け替えのない唯一無二の大切な存在となった。
だから、楓さんが手放さないというように、私だって絶対に失いたくない。
定め、境遇の差、身の程知らず。
何を言われても、引き離されても、彼の存在があり続ける限り、私はひたすらに手を伸ばし続けたい。