3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜

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「……天野さんって彼氏出来たの？」

「は、はい！？な、なんでそう思うのですか？」

楓さんの宿泊がない今、私は他の客室のバトラーとしてお客様にご案内するための観光パンフレットを選んでいると、不意にフロントで仕事をしている瀬名さんにまさかの図星を突かれてしまい、つい過剰反応をしてしまった。

「なんか、今までにないくらい楽しそうで輝いてるから。……知ってる？そういう時って自分が思っている以上に表に出てるものなんだよ」

そんな私の反応を面白おかしそうに眺めながら、瀬名さんはとても満足気な表情でそう教えてくれたことに、私はぐうの音も出ない。

「そ、そんなに顔に出てますか？一応気をつけているつもりなんですが、やっぱり瀬名さんには全てお見通しなんですね」

だから、否定することもせず私はあっさりと認めた。

そもそも、彼に隠すつもりはないので、いずれは話そうと思っていたけど、いざその話題に触れられると恥ずかしくなり、私は顔を赤く染めがら視線を足下へと落とす。

「東郷様と上手くいったんだ。いいね。なんか俺よりも幸せそうだよ」

しかも、結婚を控えた方にそう言われてしまうなんて、そこまで気持ちを隠しきれていない自分が段々と情けなく思えてくる。

「あまり茶化さないでください。これからは十分気をつけますので」

とりあえず、これ以上周りに悟られないよう、より一層気を引き締めねばと。
私は気合を入れ直していると、隣に立つ瀬名さんから小さな笑い声が聞こえてきた。

「別にいいんじゃない？俺は天野さんのその表情もっと見たいな」

その上、私の顔を覗き込んで甘い笑顔をみせてせがまれてしまい、いくら瀬名さんのことは完全に吹っ切れたとはいえ、その顔でそんなことを言われてしまっては、不覚にも胸が高鳴ってしまう。

これが天然なのですから、きっと勘違いする女性も多いのでしょう……。

かくいう自分もその内の一人だったということは置いといて、私は動揺している様子を知られないようについ顔を背けてしまった。

「それじゃあ、婚約は解消されたの？」

すると、瀬名さんから思いっきり痛い所を突かれてしまい、私は思わず肩が大きく震えた。

「そ、それは……」

おそらく、楓さんはその方向で動いていくつもりなのでしょうけど、現段階ではまだ現状維持なので、私は言葉に詰まってしまう。

「…………そっか」

しかし、瀬名さんはそれ以上追求することはなく、私を無言でじっと見つめてから、全てを悟ったように一言そう呟いた。

「政略結婚だっけ？確かに、一筋縄ではいかなそうだよね。増してや財閥家の御曹司なら尚更か……」

それから、カウンターに頬杖を付いて深い溜息と共に言われた台詞が更に私の胸に突き刺さってくる。

「このまま楓さんとお付き合いをしてどうなるか分かりませんが、私は彼を信じていますし、私も離れるつもりはありませんから」

けど、その不安を払拭するために自信にも言い聞せるよう私は胸に手を当てて、そっと目を閉じた。

「天野さんがそう言うなら、俺も最後まで応援してるよ」

そんな私に、瀬名さんはいつもの温かい眼差しを向けてやんわりと微笑みながらくれたその言葉が何よりも心強くて、つられて私も自然と笑顔になれる。