3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
遅番勤務終了三十分前。
ようやくルームサービス注文の波も落ち着き始め、一日の疲れがピークに達した私は、自分の肩を揉みながら静寂な通路を歩いていた時だった。
フロントの方から聞こえてきた客室からのコール音。
しかもその音がツーコールでも止まない為、慌てて駆け寄ると、既に職員の方々は各々お客様からの電話対応をしており、私は急いで鳴り響く受話器を手に取った。
その瞬間、モニター画面に表示された名前を見て私は硬直する。
そこに映るのは、あの“東郷楓”という文字。
「大変お待たせ致しまして誠に申し訳……」
ガチャン。
徐々に心拍数が上昇していくのを何とか堪えながら対応した途端、突如乱暴に切れてしまった電話。
……え?
何だったのでしょう。
今回は言葉すら発せられなかった状況に、私は頭の中が混乱しながらも、段々と不安が募り始めていく。
もしかしたら、あまりにもお待たせしてしまったので、お怒りになられたのでしょうか……。
そう思った途端、血の気が引いてきて、冷や汗が流れ始める。
とにかく、このまま放置するのもいけない気がして、一体どう対処していけばいいのか路頭に迷っていると、丁度いいタイミングで瀬名さんが戻ってきた。
「ああ!せ、瀬名さん!戻ってきて早々に申し訳ございませんっ!」
「ど、どうしたの天野さん?」
あまりに緊迫した様子で駆け寄ってきた私に、瀬名さんは少し圧倒されながらも、心配そうな面持ちを向けながら首を傾げる。
「い、今東郷様から何度かコール音があったのですが、対応した瞬間に切れてしまいまして!ど、どうしましょう!直ぐにでも謝罪に向かった方がよろしいでしょうか!?」
私はかなり慌てふためきながら捲し立てるように状況を説明すると、全て聞き終えた瀬名さんは小さく溜息を吐き、いつもの落ち着いた態度で私の肩にそっと手を置いた。