3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「浅野様、おやめくださいっ!」

叩かれる直前、突然御子柴マネージャーが私達の間に割って入り、泉様の手首を掴んでくださったお陰で、何とかそれは免れた。

「なっ、あなた誰!?邪魔しないでくれる!?」

思いがけない御子柴マネージャーの登場に、泉様は激しく動揺されていたけど、直ぐにまた怒りを露わにして尚も食ってかかろうとする。

「私はこの者の上司です。なので、彼女に対する苦情は全て私が引き受けますが、暴力は誰であっても許されることではありません」

けど、そんな彼女に対して全く動じることなく、凛とした姿勢で応対してくる御子柴マネージャーの振る舞いに、興奮状態に陥っていた彼女の様子が段々と落ち着き始めていく。

「もういいわ。兎に角、この事はお父様達に即報します。そうなれば、あなたがどんなに抵抗しようとも近々何かしらの処分が下されることになるでしょう」

そして、先程とは一変して冷静な態度でそう断言すると、泉様は踵を返して足早に立ち去ってしまった。


その後ろ姿を呆然と眺めながら、私と御子柴マネージャーは暫く一言も発さずその場で立ち尽くす。



____ついに、恐れていたことが起こってしまった。


いつかは訪れることになるだろうとは思っていたけど、やはりいざその時が来ると、体の震えが止まらなくなる。

しかも、今は楓さんは海外出張で不在のため、簡単に相談することも出来ない。

おそらく、彼が帰国する前にはもう何かしらの処分が下されているのだろう。

そうなれば私はこのまま彼に触れる事も出来ず、引き離されてしまうのでしょうか……。

そう思うと血の気が引いてきて、指先が氷のように冷えきってくる。

「天野君、大丈夫。事に備えて前々から手を回しているから」

すると、御子柴マネージャーは不安で推し潰されそうになる私の肩にそっと手を置き、落ち着きを払った声でそう仰って下さったので、私は強張った体が少しだけ緩み始める。

「御子柴マネージャー、ご迷惑をお掛けして誠に申し訳ございませんでした!」

それから、自分の我儘のせいで結局こんな事態に巻き込んでしまい、私は罪悪感に苛まれ、目に涙を浮かべなら思いっきり頭を下げた。

「君が謝る必要はないよ。むしろ、楓様をそこまで変えさせてくれたことに感謝しているから。……あの方は、ようやくご自分の幸せと真摯に向き合い始めたんだ。こんな喜ばしい話はないよ。だから、天野君、本当にありがとう」

しかし、御子柴マネージャーから予想だにしなかった、全てを包み込んでくれるようなとても温かい言葉を頂いてしまい、私の涙腺はもう崩壊状態で止めどなく涙がこぼれ落ちていき、仕事中にも関わらず暫く泣き止むことが出来なかった。
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