3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
第15話.新天地
「それでは、こちらの完了証書にサインをお願いします」
全ての荷物が引越し業者によって運び込まれた後、私は最終チェックを終えてから差し出された書類に一通り目を通す。
「はい、確かに。ありがとうございました」
それから特に問題がないことを確認すると、私はサインをしてから笑顔で書類を業者の方に返し、玄関先まで見送った。
「……では、早速荷解きといきますか」
そして、山積みとなった段ボールを眺めながら、これからが本番である開封作業に更なる気合を入れるため、腕をまくってから作業に取り掛かる。
ここは軽井沢リゾートホテルの社員寮で、築年数もまだ三年程しか経っていない新築であり、広さは2LDKと一人暮らしには十分だった。
加えて備え付けの家具や家電も一通り揃ってる上に新品同様で、オートロック整備もされていてセキュリティーは万全。
しかも、東郷グループのマネジメント会社が運営する巨大アウトレットパークが直近にあるため、買い物に困る事もなく、観光地というだけあり見所も満載で、住むには何とも贅沢過ぎる環境であった。
__作業を始めてから数時間後。
ようやく全ての荷解きが終わり、掃除も一通り済ませた私は、一息入れるために以前楓さんと一緒に飲んだハーブティーを用意する。
それから、餞別品として瀬名さんから頂いた洋菓子が詰まった箱を取り出し、いくつか見繕ってから真新しいモスグリーンの丸クッションに腰掛けた。
湯気立つハーブティーを冷ますために息を吹いてからゆっくりと口に含み、その香りと味を堪能する。
その度に楓さんの喜ぶ顔が浮かんできて、気を緩むと寂しさが襲い、私はあまり感傷に浸らないようにしようと1人首を横に振った。
すると、テーブルに置いてあった携帯の着信音が突然鳴り出し、手に取ってみると画面には桜井さんの名前が表示されていたので、私は自然と笑みがこぼれ出す。
「あ、美守先輩引越し作業は終わりましたか?」
通話ボタンを押して応答するやいなや、電話越しから伝わる溌剌とした明るい声はこの状況下、いつになく私に安心感を与えさせてくれる。
「はい。今丁度休んでいるところですよ。桜井さんもあれからお変わりないですか?」
「なんとか。今ようやく先輩ロスから立ち直り始めたところですよ。本当なら有休取って引越しのお手伝いもしたかったのに……」
そして、相変わらずの桜井さんの好意が嬉しくて、離れ離れになってから余計彼女の存在の有難みを身に染みて感じてくる。
「今はそちらも大変ですから……。こんなタイミングで抜けることになって本当に申し訳ないです。桜井さんも落ち着いたら是非遊びに来てくださいね。なんなら、お泊まりでも良いですから」
「えー!?いいんですかぁ!?それめっちゃ楽しそうですね!絶対行きます!てか、リゾート地勤務超羨まし過ぎですっ!私前々からずっと狙ってたんですけど倍率めっちゃ高くて……」
それから、話題は桜井さんがいかに軽井沢勤務を羨望の眼差しでみていたかという内容に変わり始め、電話越しからでも感じる彼女の圧に私は若干押され気味になっていた。