3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜


___翌日。



「本店から来ました天野美守と申します。軽井沢の地は初めてなので、色々とご迷惑をお掛けすると思いますが、精一杯努めさせて頂きますので、どうぞよろしくお願いします」


新天地での配属先は、宿泊部のハウスキーピング担当に決まり、私は始業開始前のミーティング時に従業員の方々の前で緊張しながら深く頭を下げた。


「よろしくね、天野さん。君の働きっぷりは良く聞いているから、ここでも大いに期待しているよ」

そんな硬くなる私を少しでも解そうと気を遣って下さっているのか。御子柴マネージャーと同年代くらいで、同じように物腰の柔らかい紳士的な雰囲気を漂わせるマネージャーが、柔らかい笑顔をみせてこの場を和ませてくれる。

その友好的な振る舞いに、これまた私は素敵な上司の方と巡り会えた喜びで、緊張感が少しづつ薄れ始めてきた。

そして、周りの従業員の方達もとても温かい目を向けて笑顔で拍手をして下さり、お陰で昨夜から抱いていた顔合わせに対する不安は綺麗に取り除かれたのだった。



「それじゃあ、今日から君を指導する主任の門井さんだよ。困ったことがあったら彼女に色々相談してね」

それから自己紹介も無事に終わり、朝のミーティングも終えてから早速業務へと取り掛かろうとする手前、私はマネージャーに呼ばれ、担当指導員の女性を紹介された。

「初めまして、門井です。本店から人が来るっていうからどんな方かと思えば、まだ若くてビックリしたわ。これからよろしくね」

そう笑顔で手を差し出して下さった門井さんという女性。
年齢は四十代半ばぐらいだろうか。
パーマかかったミディアムヘアーに身長は少し低めで、柔らかい笑顔が優しそうな印象を受ける。

「はい。こちらこそ早く仕事を覚えるように頑張りますので、よろしくお願いします」

そんな彼女が担当指導員であることに安心した私は、満面の笑みで再び深く頭を下げた。

「あと、天野さんは新人の宮田さんって子と一緒に組んで欲しいんだけど……」

「どうも、宮田華でーす。噂はかねがね聞いておりまーす」

すると、門井主任が周囲を見渡したタイミングで突然背後から甲高い声の若い女性が顔を出してきて、不意をつかれた私は思わず肩が思いっきり跳ね上がってしまった。

「あ、天野です。よ、よろしくお願いします」

年齢は桜井さんよりも若そうで、本当に今年入ったばかりなのか。社会人というよりも学生感が強く、コテで巻いた深みのあるブラウン色の長い髪を一つに束ねて、メイクもナチュラルだけどしっかりと施され、ネイルも艶感のある控えめの薄いピンクカラーで綺麗に整えられている。

喋り方も少し砕けた感じで、何だかホテルマンらしさをあまり感じない。

桜井さんも今時の可愛らしい方だったけど、ここまでではなかったので、私の周りにはあまりいないタイプの方とこれからご一緒するということに変な緊張感が湧いてきて、たじたじになってしまう。

……それに、噂って……。

「宮田さん、変なこと言わないでっ!ごめんなさいね。この子遠慮なしに物事を言う子なの。とりあえず、気にしないでね」

「酷いです。正直者って言ってくれませんか?」

隣で門井さんは引き攣り笑いを浮かべながらフォローして下さったけど、めげずに反論する宮田さんには上下関係という意識があまりないのでしょうか。

そんな彼女の所作に疑問を感じながらも、とりあえずこれからはこの方々と行動を共にするので、角が立たないように接していこうと心に決める。
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