3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
こうして、いよいよ本格的に新天地での業務が始まるので、粗相のないように気を引き締めていこうと思っていたのだけど……。

先程宮田さんから言われた“噂”という単語が頭にこびりついて離れない。

もしかして、その噂というのは私と楓さんの話なのだろうか……。

確かに、前のホテルでも泉様がお帰りになられてから、瞬く間に話が広がり、私の耳にも入ってきてしまう程だった。

だから、都内から離れたこの地でも、何かしらの情報が入っているのかもしれない。

けど、それに関して私が言えることなんて何もないのでしょうけど……。





「天野さん、私玉の輿狙ってるんですよねー」

私達はチェックアウトをされた客室の忘れ物チェックをしている中、突然宮田さんから切り出された核心をつくような話題に私はつい過剰反応してしまう。

「……玉の輿ですか。確かに、そうなったら素敵な話ですね」

しかし、動揺を悟られないよう平静を装い、私はあまり深くは考えないようにして当たり障りのない返答をする。

「女の夢じゃないですか?そもそも私それ目当てでここに死ぬ気で入社したんですよ。東郷系列のホテルって一流ばっかりだから、一番手っ取り早く資産家と出会えそうじゃないですか。だからめっちゃ期待してたのに、蓋を開けてみたら雑用ばっかりだし……」

まさか、そういう理由でホテルマンを目指す方がいらっしゃったとは……。
世の中には色々な考えをお持ちの方がいるので否定はしないけど、この仕事を雑用だと思うのはいただけない。

どんな事にも基本があってそれを一つ一つしっかりこなしてこそ、真のホテルマンになれるというのに、宮田さんは新人であるのにも関わらずそれを分かっていらっしゃらないのでしょうか。

そう喉まで出かかった言葉を私は何とかすんでのところで堪えると、苦笑いを浮かべて宮田さんの話を適当にあしらう。

「それで、天野さん、どうやったら玉の輿を狙えるんですか?コツを教えて欲しいんですけど」

それなのに、更に追い打ちをかけるような質問に、私は一瞬言葉に詰まってしまった。

「すみません、私に聞かれても分かりませんので」

けど、ここはしらを切ろうと。そもそも、そんな方法なんて知らないものは知らないのだから、気持ちを落ち着かせて冷静にそう言い返した。

「えー。勿体ぶらないで私にも教えてくれませんか?御曹司の落とし方」

そんな私の反応が癪に触れたのか、宮田さんは少し声のトーンを低くさせながら、まるで獲物を狙う鷹の如く、鋭い眼光をちらつかせて挑発的な態度で私ににじり寄って来る。



「こら!二人とも、いつまでも一つの部屋に留まってないで早く次のフロアに行きなさい!宮田さんも勤務中なんだから私語は慎んで!」

すると、いつまでも部屋から出てこない私達に痺れを切らした門井主任は、中に入ると眉間に皺を寄せて、険しい顔付きで一喝されてしまい、そんな彼女の変貌っぷりに私は肝を抜かされてしまう。

「も、申し訳ございません!直ぐ次の部屋に行って参ります!」

とりあえず、ご迷惑をかけてしまった事には変わりないので、私は即座に謝ると、次の持ち場につくため足早にこの部屋を後にしたのだった。
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