3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
◇◇◇
「……はあ、疲れました」
その後、何とか午前中の業務をこなし、昼休憩の時間となったので、私は用意したお弁当を取りに更衣室へと向かう途中、どっと押し寄せてきた疲労感に思わず深い溜息と共に大きな独り言が漏れてしまう。
あれから、隙あらば宮田さんは私と楓さんの事について遠慮なしに根掘り葉掘り聞こうとして来るので、また門井主任の逆鱗に触れないようそれを何とか交わして仕事に専念するのが一苦労だった。
まだ数時間しか一緒にいないので、宮田さんがどんな方なのか良く分からないけど、この短時間で接してみても私と志が違うような気がしてならない。
桜井さんや、瀬名さんみたいな誠実さがあまり感じられないといとうか……。
「……ああ、お二人に会いたいです……」
顔を思い浮かべた途端恋しい気持ちが溢れ出してきて、またもや心の声が勝手に漏れてしまう。
一方、門井主任は一見穏やかそうでも言う時はしっかりと言う方だと分かり、その内容も芯が通っているので指導員として素晴らしい方だと心から感じた。
兎にも角にも、宮田さんの振る舞いから、“噂”というのはやはり私と楓さんの話だったという事が判明し、このホテルでも既に広まってしまっているのかと思うと気が重くなってくる。
こうして二度目の深いため息をはいて、私は辿り着いた更衣室の扉を開けようと手を伸ばした時だった。
「……そうなのよ。もう全然仕事が進まないから参っちゃうわ」
奥から聞こえてきた門井主任の疲れた声。
「仕方ないわよ。あの子野心家だもん。それに加えてあの東郷グループの御曹司に手を出した子が一緒なんでしょ?それは絶対黙っていないわ。よくそんな二人を組み合わせたわね」
それから、知らない女性の声が聞こえ、しかも話の内容からするに確実に自分のことを言っているので、入るに入れなくなってしまった。
「私も反対したけど、こうなったら仕方ないでしょ。でも、本当にあの天野って子は東郷グループの御子息に手を出そうなんてよく考えたわよね。身の程知らずって言うか、世間知らずって言うか、私なんて想像しただけでも恐れ多くて身震いがするのに」
しかも、素晴らしいと思っている方から非難されてしまい、私は奈落の底に突き落とされたような心境に陥ってくる。
「なんかバトラーに指名されたんだって?それで調子に乗ったんじゃないの?しかも東郷家の次男ってかなりの美形で有名な方でしょ。そんな人の側に仕えてたら、若い子なら誰でもそうなっちゃうんじゃない」
加えて、とても悪意が籠った言い方に私は更なるショックを受け、この場に立っていることが辛くなってきた。
「でも、それで結局婚約者の方を怒らせて飛ばされたんでしょ?それにしては軽井沢勤務なんて贅沢過ぎる話よね。もしかして幹部にも手を出して上手く根回ししてたりして。あの子真面目で礼儀正しいけど、もしかしたら裏では結構なやり手なのかもね。顔も綺麗だし」
その後、更衣室から聞こえてくる軽蔑するような二人の笑い声。
この一連の流れを聞いただけで、私はここの従業員の方達からどんな目で見られているのかが良く分かった。
そして、最初の挨拶で見せてくれた、あの受け入れるような笑顔は真実ではないということも……。
その瞬間、涙が溢れそうになったけど、私は何とか歯を食いしばって泣きそうになるのを堪えた。
話が誇張されている部分もあるけど本質は間違っていないので、もし真っ向から言われるようなことがあっても私は何も反論出来ない。
“身の程知らずで、調子に乗った世間知らずな若い子”
きっと私がここへ来る前には、既にそんな噂が出回っていたのでしょう。
この中で私達の事情を知る者は誰もいないので、無理もない話だし、覚悟の上だったけど、やっぱりそれを間のあたりにしてしまうと精神的にかなりきついものがある。
けど、せっかく御子柴マネージャーが必死になって準備して下さった異動先なので、ここで挫けるわけにはいけない。
それに、例え理解者がいなくても、彼の“信じろ”という言葉がある限り、私はここでずっと彼を待ち続ける。
そう心に誓い、私は二人の話が落ち着くまで、暫くその場でじっと耐え続けたのだった。
「……はあ、疲れました」
その後、何とか午前中の業務をこなし、昼休憩の時間となったので、私は用意したお弁当を取りに更衣室へと向かう途中、どっと押し寄せてきた疲労感に思わず深い溜息と共に大きな独り言が漏れてしまう。
あれから、隙あらば宮田さんは私と楓さんの事について遠慮なしに根掘り葉掘り聞こうとして来るので、また門井主任の逆鱗に触れないようそれを何とか交わして仕事に専念するのが一苦労だった。
まだ数時間しか一緒にいないので、宮田さんがどんな方なのか良く分からないけど、この短時間で接してみても私と志が違うような気がしてならない。
桜井さんや、瀬名さんみたいな誠実さがあまり感じられないといとうか……。
「……ああ、お二人に会いたいです……」
顔を思い浮かべた途端恋しい気持ちが溢れ出してきて、またもや心の声が勝手に漏れてしまう。
一方、門井主任は一見穏やかそうでも言う時はしっかりと言う方だと分かり、その内容も芯が通っているので指導員として素晴らしい方だと心から感じた。
兎にも角にも、宮田さんの振る舞いから、“噂”というのはやはり私と楓さんの話だったという事が判明し、このホテルでも既に広まってしまっているのかと思うと気が重くなってくる。
こうして二度目の深いため息をはいて、私は辿り着いた更衣室の扉を開けようと手を伸ばした時だった。
「……そうなのよ。もう全然仕事が進まないから参っちゃうわ」
奥から聞こえてきた門井主任の疲れた声。
「仕方ないわよ。あの子野心家だもん。それに加えてあの東郷グループの御曹司に手を出した子が一緒なんでしょ?それは絶対黙っていないわ。よくそんな二人を組み合わせたわね」
それから、知らない女性の声が聞こえ、しかも話の内容からするに確実に自分のことを言っているので、入るに入れなくなってしまった。
「私も反対したけど、こうなったら仕方ないでしょ。でも、本当にあの天野って子は東郷グループの御子息に手を出そうなんてよく考えたわよね。身の程知らずって言うか、世間知らずって言うか、私なんて想像しただけでも恐れ多くて身震いがするのに」
しかも、素晴らしいと思っている方から非難されてしまい、私は奈落の底に突き落とされたような心境に陥ってくる。
「なんかバトラーに指名されたんだって?それで調子に乗ったんじゃないの?しかも東郷家の次男ってかなりの美形で有名な方でしょ。そんな人の側に仕えてたら、若い子なら誰でもそうなっちゃうんじゃない」
加えて、とても悪意が籠った言い方に私は更なるショックを受け、この場に立っていることが辛くなってきた。
「でも、それで結局婚約者の方を怒らせて飛ばされたんでしょ?それにしては軽井沢勤務なんて贅沢過ぎる話よね。もしかして幹部にも手を出して上手く根回ししてたりして。あの子真面目で礼儀正しいけど、もしかしたら裏では結構なやり手なのかもね。顔も綺麗だし」
その後、更衣室から聞こえてくる軽蔑するような二人の笑い声。
この一連の流れを聞いただけで、私はここの従業員の方達からどんな目で見られているのかが良く分かった。
そして、最初の挨拶で見せてくれた、あの受け入れるような笑顔は真実ではないということも……。
その瞬間、涙が溢れそうになったけど、私は何とか歯を食いしばって泣きそうになるのを堪えた。
話が誇張されている部分もあるけど本質は間違っていないので、もし真っ向から言われるようなことがあっても私は何も反論出来ない。
“身の程知らずで、調子に乗った世間知らずな若い子”
きっと私がここへ来る前には、既にそんな噂が出回っていたのでしょう。
この中で私達の事情を知る者は誰もいないので、無理もない話だし、覚悟の上だったけど、やっぱりそれを間のあたりにしてしまうと精神的にかなりきついものがある。
けど、せっかく御子柴マネージャーが必死になって準備して下さった異動先なので、ここで挫けるわけにはいけない。
それに、例え理解者がいなくても、彼の“信じろ”という言葉がある限り、私はここでずっと彼を待ち続ける。
そう心に誓い、私は二人の話が落ち着くまで、暫くその場でじっと耐え続けたのだった。