3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「楓さん、申し訳ございませんが、会えるのはもう暫く先になりそうです。……私は、あのホテルから異動になりましたので……」

というか、追い出されたと言った方が正しいのかもしれないけど、そこは敢えて言葉を濁してしまう。

すると、まるで電波が途絶えてしまったかのように、突然何も聞こえなくなり、不安に感じた私は通話がまだ繋がっているのか確認しようとした時だった。

「…………それ、いつの話だ?」

ようやく聞こえてきた楓さんのとても不機嫌そうな低い声に、思わず肩が跳ね上がってしまう。

「え、えと……楓さんが渡航した数日後です」

何故か変な緊張感が走り、私はおずおずと答えると、またもやそこから暫く何も聞こえなくなってしまった。

「…………バカかっ!なんでもっと早く言わないんだ!?」

それからもう一度応答確認をしようとした時、鼓膜が破れんばかりの怒号が電話越しから耳に突き刺さり、私は危うく手に持っていた携帯を落としそうになった。

「す、すみません。楓さんのお仕事の邪魔をしたくなくて……」

「仕事よりもそっちの方が大事だろっ!」

とりあえずここは謝ろうと試みるも、未だ楓さんの怒りが治まらないようで、尚も一喝されてしまい、私は冷や汗が流れ始める。

本当に、瀬名さんの言う通りの状況になってしまったことに、これならもっと早くお伝えすれば良かったと、後悔が激しく押し寄せてきた。

「……もう会いたくないからあの女には全て話したけど、まさかこんなに早く動くとはな……」

そして、暫くしてから落ち着きを取り戻した楓さんは、小さく息を吐いてから低い声で静かにそう呟く。

「泉様は楓さんのことを本気で愛していました。なので、相当ショックだったのだと思いますよ」

この反応だと、やはり楓さんも泉様の想いには気付いていなかったのか。何だか彼女が少しだけ気の毒に思えてきて、私はあの時起きた出来事を全て彼に打ち明けた。


「……そうか。まあ、引き続きあの女の相手を適当にしていれば、状況は違かったのかもしれないけど、俺はもう美守以外の女には触れたくない。本当ならもう少し上手くやる予定だったけど、それに耐えられなくなって……。だから、巻き込んで悪かった……」

私の話を聞き終えた後、楓さんは小さく溜息を吐いてから、とても辛そうな声でそう仰ってきた話に、私は段々と胸が痛み出してくる。

「そんな風に仰らないで下さい!私だって楓さんが他の女性のお相手をしてるだなんて耐えられません。ですから、これで良いんです。私は楓さんを信じていますので安心して下さい」

なので、これ以上自分を責めて欲しくなくて、私は必死になりながら自分の想いを正直に伝えた。
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