3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「それじゃあ、天野さんは正しいんですか?人のもの横取りして飛ばされたくせに?自分のことは棚に上げて正義感振り撒くの止めてくれませんか?」

すると、私の言動がよっぽど癪に触ったのか。宮田さんの表情が急に歪みだし、眉間に皺を寄せながら鋭い所を突かれてしまい、私はこれ以上反論する事が出来なくなりたじろいでしまう。

楓さんに対する愛には混じり気のないものであると自負出来る。

けど、確かに宮田さんの言う通り、既にレールが引かれたものに手を出した行為は、理由がどんなものであれ卑しくて浅ましいし、その自覚はありつつも結果的に堕ちていく道を選んだ。

…………でも。

「そうですね。けど、どんな形であれ私は楓さんを愛しています。批難を受けるのは承知の上です。彼に迷惑をかけたくないので、公には言えませんが、私はこの選択を間違いだなんて決して思いませんし、後悔なんてしていませんから」

それが紛れも無い本心なので、周りからどんな目で見られようとも、真っ向からこの気持ちをぶつけていきたい。

そんな強い思いから、私は拳を強く握りしめて一歩踏み出すと、堂々とした出立で彼女と対峙した。


「ず、随分と綺麗事を言いますね。とにかく、私のお願いを聞いてくれなければこの事は上司に報告します。念の為、会話は録音していますので証拠はありますから。……分かってますよね?」

私の勢いに押されたのか。一瞬怯んだ様子を見せてはきたが、直ぐに立て直し、尚も脅しをかけてくる宮田さんの神経が私は段々と信じられなくなってくる。

「私も卑しい人間だって自覚してるんですよ。だから、自分の幸せのために必死なんです。天野さんみたいに、強運の持ち主でもないので」

そんな私の考えを汲み取ったような言い分だけど、開き直るように再び勝ち誇ったような余裕の笑みを浮かべ、宮田さんもこちらに向かって一歩踏み込んでくる。

「……あと、一つ忠告しますけど、相手の”待ってて欲しい”って言葉はあまり鵜呑みにしない方がいいですよ?」

そして、まさか楓さんの言葉をここで拾ってくるとは思いもよらず、私は驚愕の目で彼女を見た。

「私の経験上、そうやって待ち続けて実際本当に来たことなんて、ほぼありませんでしたから」

そんな私の反応を楽しむかのように、宮田さんは小さくほくそ笑みながら言い放ったその言葉がまるで楓さんを侮辱しているようで、顔の温度が急激に上昇する。

「お言葉ですが、彼は決してそんな人ではありませんので、ご心配には及びません」

だから、ついムキになって強めの口調で否定してしまった。

「もしかして、天野さんって人に裏切られた経験がないんですか?……まあ、別にいいんですけど。それじゃあ、例の話よろしくお願いしますね」

しかし、宮田さんには全く響いていなかったようで、彼女は平然とした態度で人を小馬鹿にしたようにそう言い残すと、満足そうに笑って颯爽とこの場を立ち去って行ってしまった。
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