3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
それから忙しないままあっという間に次の日を迎え、今日も早番勤務である私は、週末二日目の顧客リストに目を通しながら、部屋のチェックに行こうとした時だった。
「天野さん、ちょっといい?」
急に門井主任に呼び止められ、返事をして振り向くと、何やらいつもとは少し違うとても穏やかな表情でこちらを見てきて、私は何事だろうと小さく首を傾げる。
「昨日海外の方が宿泊されるお部屋に、お誕生日祝いのセッティングをしてくれたでしょ?チェックアウトされた時お客様が大変喜んで感動していたみたいよ。またここへ来たら、是非うちを利用したいのと、友人にも勧めるって仰っていたみたい。天野さん粋な計らいをしたわね」
それは昨日自分が行ったサービスに対する話で、お客様からリアクションを頂けたことに、喜びと達成感で胸がじんわりと熱くなってくる。
「良かったです。喜んで頂けるか少し心配していたので」
全てのおもてなしに対して、必ずしもお客様から良い反応を頂けるわけではないけど、それ程までに喜んで下さったことを知り、私は幸せな気分に満たされながら満面の笑みで答えた。
「せっかくだから、これからもお試しでお誕生日のお客様にはサプライズサービスをご提供して、反響が良ければマニュアル化するつもりよ」
しかも、勝手にしたことがここまで評価されるとは思ってもいなかったので、何だかそれはそれで恐縮してしまう。
「ここ数日間働きぶりを見ていたけど、天野さんって仕事も凄く丁寧だし、やっぱり優秀って言われるだけあるわね」
その上、まさか門井主任からこんなに称賛を受けるなんて、半ば信じられないことに少しだけ目頭がじんわりと熱くなる。
「ありがとうございます。これからもより良いサービスをご提供出来るように精進して参ります」
そして、心から感謝の気持ちを込めて、私は門井主任に深く一礼した。
「本当に今時珍しいくらいの礼儀正しさね。正にホテルマンにぴったりだわ。その調子で今後も頑張ってね」
それから、ここへ来て初めて見る彼女の屈託のない笑顔が純粋に嬉しくて、私は威勢良く返事をした。
噂のせいで悪いイメージが付いてしまったけど、これからもこうして今まで通り誠心誠意尽くしていけば、もしかしたら、周りとも打ち解けられるかもしれない。
そんな希望が生まれてきて、益々やる気に満ち溢れてきた私は、小さく拳を握りしめた。