3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
久しぶりに晴れやかな気分でモチベーションを維持したまま、午前中の業務も何とか終えて、お昼休憩に入ろうと更衣室へ足を運ぼうとした時だった。

「天野さん」

突然宮田さんから満面の笑みで声を掛けられ、何だかその笑顔から不穏な気配がして、私はついぎこちない反応をしてしまう。

「あれから例の話どうなりました?もうすぐ一週間近く経ちますけど全然音沙汰ないので」

そして、その隙を突くように、宮田さんは距離を詰めてきて小声で囁くと、今度は薄ら笑いを浮かべながらこちらの様子を伺ってくる。

これまで動きがなかったので、このまま暫くその事には触れないでおこうと思っていたのに、やっぱり先延ばしするのにも限界があったのか。

ついにアクションを起こしてきたことに、私は戸惑うも、何とかそれを表に出さないよう努めた。

「すみません。彼はまだ海外出張中でそれどころじゃないので」

とりあえず、宮田さんの要望を呑むような発言は避けようと。その場を何とか誤魔化すと、急に彼女の表情が歪みだし、軽く舌打ちをされてしまった。

「そうやって、はぐらかすつもりですかあ?あまり非協力的な態度を取っていたらマジで上に報告しますけど?」

そして、上下関係まるで無視の上から目線な態度で脅しをかけてくる彼女に、私は改めて驚かされる。

自分が強請られている事よりも、こんな人がホテルマンをやっていることの方がショックで、そんな彼女にホスピタリティ精神はあるのか疑問を感じてしまう。

本来なら新人の時こそ志高く輝いても良いはずなのに、スタートからこんな振る舞いをするなんて。

己の利益を優先する彼女に、ホテルマンとしての資格はありません。

そうはっきり言おうとも思ったけど、ここで下手に火に油を注いでも状況が悪化するだけなので、私は何とかギリギリのところで言葉を飲み込んだ。

「とにかく、今はまだ無理ですので、ご理解下さい。それでは、失礼します」

そして、苛立つ気持ちを抑えながら、私は下手に出ないよう少し厳しめの口調で断言すると、軽く一礼をしてこの場を後にしたのだった。
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