3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「私達の期って超ラッキーだよね」

「本当それ。入社説明会の時も先輩達にめっちゃ羨ましがられてたし」

「ねえ、もう話しかけた?」

「まだ。てか超イケメン過ぎて近寄るのも無理。オーラ半端ないし、ちょっと怖いし」

「けど、もしかしたら玉の輿に乗れるチャンスがあるかもしれないんだよ?何事も実践あるのみでしょ!」

「それじゃあ、後で一緒に声掛けよう」


大手東郷不動産グループに入社してから早一週間が経過。
一ヶ月間の新入社員研修がスタートし、既に同期内で仲の良いグループが出来始める中、傍から聞こえてくる甲高い耳障りな女子の声に、私は今日もうんざりさせられる。

毎日毎日懲りずによく同じ話を繰り返すものね。
男以外に話題はないのだろうか。

そう思いながら、私は講習室の窓際に座りながら机に突っ伏しているある人物に視線を向ける。


同期生である東郷楓。

この大財閥である東郷グループの御曹司であり、将来を約束されていて、ゆくゆくは私達の上に立つ超重要人物。

けど、それにはまず各部門の地盤から学ぶ必要があり、その為に一般人の私達と同じ立ち位置からスタートしていくのだと、以前上司から聞いたことがある。

そんな話が瞬く間に広がり、女性陣は愚か、男性陣まで何が目的なのかは知らないけど、彼に近付こうと目論む人間が後を絶たない。
一体、なぜそこまで関わろうとするのか。そうまでして自分の利益が大事なのか。

……別に、そんなのは人の勝手だし、好きにすれば良いと思う。

ただ、私はそういうものには一切興味がなくて、人付き合いが苦手だから積極的に関わろうとは思わない。

なんて、特に意識しているわけではないけど、ただ呆然と彼を見つめていると、講師が部屋に入ってきて、机に突っ伏していた東郷君が顔を上げた。

本当に男性かと思うくらいに絹のようなキメ細かい綺麗な肌に、ほっそりとした顎に長いまつ毛とくっきり二重の琥珀色の大きな瞳。
鼻筋も通っていて、絶妙なEラインで、格好良いと言うよりは、綺麗という言葉がよく似合う気がする。

これだけの美貌を持ち、しかも財閥家の御曹司。
確かに、大体の女性は黙っていないのかもしれないけど、私は男なんぞ毛程にも興味がないので全く響いてこない。

それに、何だかあの人も私と同じようなものを感じる気がする。

自ら誰かに話しかけることはしないし、笑顔は一度も見たことがない。
私でさえ、社交辞令として一応笑ったりはしているのに、彼はそれすらなく、そもそも感情を表に一切出さない。
人に全く関心を示さず、関わろうともせず、踏み込ませない壁を作っている。

私も個人主義ではあるけど、あそこまで徹底しているわけではないので、あんな人がこれからこの会社を引っ張っていく内の一人になるのかと思うと、何だか行く末が不安になっていく。

兎にも角にも、この研修で私があの東郷楓という男と話すことはないだろうし、これからも深く関わるようなことはないでしょう。


…………そう、思っていたのに。
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