3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
それから数日が経ち、私達は他の営業を周りながらLiberteのオーナーを納得させる為の資料作りに明け暮れる中、相変わらず東郷君は定時に上がる日が続き、流石の先輩も彼の行動に段々と不信感を抱き始めた。

けど、本人にはやはり強くは言えず、時折私に意見を求めてくるけど、こちらに聞かれても彼の考えていることなんて分かるはずもなく、頭を悩ます。




「どういうつもりなの?任せろって言った以降結果が全然伴っていない気がするんだけど?」

こうして、ついに痺れを切らした私は、同期として切り込んでやろうと。彼が喫煙所でコーヒーを飲みながら一服している最中、お構い無しにと乗り込んだ。

「まあ、そんなに焦るなよ。直に分かるから」

それなのに、あの日と変わらずの余裕な態度で煙草を吹かす彼に、私は段々と腹が立ち始めていく。

ちょっと前までは一緒に資料作りをしていたくせに。今はあの時よりも更に時間が掛かり、毎日ほぼ終電で帰っているというのに、この男は一向に手助けをする気配がないのは一体何なのか。

私は更に不平不満をぶつけようと口を開いた瞬間だった。

「あ、いた。東郷君、白鳥さん聞いてくれ!たった今Liberteのオーナーから契約を決めるって連絡が入ったよ!」

突然先輩が若干息切れをしながら喫煙所に入ってきて、満面の笑みを向けながら伝えてきた内容に、私は開いた口が塞がらなかった。

「……そ、そんな。私達まだ何もしていないのに……」

嬉しい出来事の筈なのに、あまりにも唐突過ぎて不信感が募り、私は素直に喜べなかった。

「どうやら、あれから東郷君が密かに掛け合ってくれていたみたいで、その熱心さに折れたってオーナーが言ってたよ。帰りが早かったのはその為だったんだね。本当に水臭いなあ」

けど、先輩は疑うような素振りは全く見せず、まるで重責から開放されたような安心しきった顔で東郷君の肩に手を置く。

「先輩も頑張っていたので、自分に出来る事をしたまでです。契約決まって良かったですね」

それから、東郷君も私には一切見せる事はない作り笑顔を浮かべながらそう応えると、先輩は満足そうに喫煙所から出て行った。


「……東郷君、何をしたの?」

先輩が立ち去った後、尚も腑に落ちない私は、隣で二本目の煙草に火を付ける彼に向かって低い声で訊ねる。

先方がそう言うのだから、本当に彼は陰ながら努力をしていたのかもしれない。
それなのに、何故その話を完全に信じる事が出来ないのか自分でもよく分からないけど、聞かずにはいられない心境に、私は再びタバコをふかし始める彼の横顔をじっと見つめた。


「あの女と数日間寝ただけだ。そしたらあっさり承諾したよ。まさか、ここまで簡単にいくとはな」

すると、予想だにもしなかった彼のとんでもない発言に、私は一瞬自分の耳を疑った。

「ね、寝たって……い、いつの間にそんな関係に!?」

接点なんて一回目の商談しかなかったはずなのに、あの短時間でどうしてそんな事が出来るのか。私は柄にもなく思いっきり動揺してしまった。

「商談中にやたら俺の事を色目で見てたから、鎌を掛けて渡した資料の中に連絡先忍ばせたんだよ。それからすぐ電話が入って。こんなんで契約決めるなんて、あの会社も大した事ないな」

けど、この男はこちらの様子なんて気にもせず、気怠そうにそう説明すると、最後には嘲笑うような目でこちらを見てきて、私は彼のそんな態度に恐怖を感じた。

入社してからまだ一年ちょっとしか経っていないのに、こんなことを平然とやってのけるなんて、並の神経では考えられない。

それに、今まで何とか結果に繋げようと先輩とこれまで必死になりながら努力してきたのに、枕営業であっさりと成果を持っていかれるなんて、悔しすぎるし、認めたくない。

「あなたは、私達の努力を一体なんだと思って見ていたの?」

だから、止めどなく溢れ出てくる負の感情を何とか抑えながら、私は苛立ちをあまり表に出さないよう静かにこの男に問いただす。
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