3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
その時、突然吹き出した東郷君に、私は訳が分からず怪訝な目で彼を見上げる。

「やっぱり、予想通りの反応だな」

それは嫌味で言っているのか。
良い意味にはあまり聞こえてこない話に私は鼻を鳴らした。

「同情して欲しかったとでも?」

「いや、全く」

こうして嫌味をたっぷり含めて訊いてくる自分自身もどうかと思うけど、そんな私の返答に対して、東郷君はどこか満足気に笑ってこちらを見返してきた。

そんな中でふと、ある疑問が浮かび上がってくる。

彼は東郷家の中では家族として見られていない。
けど、それでも何故か早く昇任したがっている。
私だったら自分をそんな風に扱ってくる家の事情なんて知ったこっちゃないけど、何故彼はあそこまでして拘っているのだろうか。

何事もなければ代表の座は自動的に長男である東郷竜司に渡るのだから、後継者問題なんて気にせず好き勝手出来るはずなのに……。

…………まさか、彼がここまで躍起になっているのは……。

「東郷君ってこの会社の代表を狙っているの?」

そうとしか思えない彼の行動に、私は確信を持って問いかけてみると、図星だったのか突然その場で立ち止まってしまい、今度は真顔で私の目をじっと見据えてきた。

「そうなったら面白いだろ」

そして、呟くようにそう言い放った彼の表情は今までに見たことが無い程酷く歪んでいて、蔑むような目でほくそ笑む姿からは憎しみという感情が自ずと伝わってくる。 

 
……。

…………そうか。


これで彼のことが少し分かった気がする。

そして、思っていた以上に、東郷君は闇に呑まれているのだということも。


それから、私はそれ以上何も聞くことはなく、東郷君も口を開くことなく、お互い黙ったままそれぞれのデスクへと戻っていったのだった。
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