3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
そして更に月日は流れ、彼の言う通りLiberteの契約を取ってから間も無く、東郷君は異例の速さで昇任していった。

うちの会社の昇任基準は完全なる成績主義型なので、例え入社一年でも二年でもそれ相応の成果と人格とマネジメントを持ち合わせていれば昇任が認められ、早ければ二十代で管理職愚か役員にだってなれる。

けど、そんな人材は今まで存在した事はないようだけど、彼はその前代未聞な事を成し遂げようとしている。

それもこれも全ては復讐のため。
正の力よりも負の力の方が遥かに強いと何処かで聞いたような気がするけど、正に彼がそれを証明していると思う。

兎にも角にも、細く永くをモットーにしている私は、群を抜いて先を行く彼の後ろ姿をただ見ているだけでいい。
彼の事情を知ったところで私には何も関係ないし、余計なことにも巻き込まれたくない。

それに東郷君は昇任して部署も変わってしまったし、もうこれ以上彼に関わることなんてそうそうないでしょう。


…………そう思っていたのに。




___一年後。


不本意にも主任へと昇任してしまい、入社してから初めて迎えた人事異動。

その行き先は、海外事業開発企画部門という、これまた自分の希望通りではない異動先である上に、長期出張が多く益々自分の時間が取れないことに私は項垂れなだら新たなデスクへと向かった。

___そして、絶句する。


「っよ。久しぶり」

もう暫く会うことは無いのだろうと思っていたのに、まさかこんなに早く再会してしまうなんて。

しかも、こちらの心境を知ってか知らずか。
今や上司となった課長である東郷君は不敵な笑みを浮かべながら挨拶をしてきて、私は暫くその場で固まってしまった。

「……もしかして、私を呼んだの?」

ようやく言葉が出せるようになり、そうとしか思えない状況に私は怪訝の表情で彼を睨みつける。

「言っただろ?上手く使わせてもらうって」

そして、まさかの昔言われた言葉をここで掘り起こされ、私は今になって自分はいつの間にやらこの男の駒にされていた事に気付く。

その上課長以上から人事にも口を出せるようになるので、もしかしたらこの会社にいる以上私はずっとこの男に良いように使われるのでは……。

そう思うと段々と頭痛がしてきて、私は思わずこめかみを指で押さえた。

とりあえず、今は同期といえども上司と部下という立場なので、同僚よりは距離感もあるし、あの時のように直接一緒に仕事をすることはないのだろうけど……。

彼はあれからも引き続き、裏では卑劣な手を使っていたりするのだろうか。

決して触れる事はしないけど、そんな人間が自分の上司になるのかと思うと、益々気持ちが萎えてくる。

けど、人事に抗えないのが社員の宿命なので、ここに決まった以上はやるしかないと。
私は無駄な抵抗は止めて流れに身を任せることにした。
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