3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
◇◇◇
___現在。
「……はあ〜」
私は明日から始まる海外出張の資料を渡すため、個室に入り彼の顔を見た途端、思わず大きな溜息が漏れ出てしまった。
「何だよ。部屋に入るなり辛気臭いな」
そんな私の特大の溜息が癪に障ったのか、楓君はパソコンの画面から視線を外し、眉間に皺を寄せながら私を睨みつけてくる。
「ちょっと昔のことを思い出しまして。……それと、困るんですよ。もっと節度をわきまえて頂かないと」
私はこれまでの不満が沸々と湧き起こる中、何とかそれを抑えながら、負けじと彼の目を見据える。
「あんな出入りが頻繁な所で天野様とイチャつかれたら後始末が大変なんです。一応混乱を防ぐ為に、受付の方は婚約者だということにしてくれたみたいですけど……。全く、こっちの心臓が持ちませんよ」
「へえー、ここの受付嬢は優秀だな」
天野様と恋人になれたことは個人的に喜ばしいことだけど、浅野家との縁談が継続されている中、軽率な行動は慎むようにと戒めているのに、この男には全く響いていないどころか、とても満足気な表情を浮かべる始末。
「まあ、あそこではもうしないから安心しろよ」
挙げ句の果てには、天野様と随分よろしくやっていたのか、顎に手をあてて、何とも幸せそうな惚気た表情で明後日の方向に視線を向ける彼の姿に私は愕然とする。
本当に、この男は今まで私が見てきた奴と同一人物なのだろうか。
ある時は目的の為に簡単に枕営業をして、ある時は人の首を平気で切り捨ててきて、それ以外にも彼の非道な行いを私は沢山知っている。
そんな男が一人の女性によってここまで変わってしまうとは。これ程までに愛に溺れていくとは。
やっぱり、人生何が起こるか分からないものなんだと。
つくづくそう思った私は、これ以上責めても無駄だということを悟り、軽くこめかみを抑えた。
「それより、例の案件はどうなった?」
すると、腑抜けた表情から一変していつもの冷めた表情に戻り、仕事モードに切り替わった彼の問い掛けに対して、私は無言で首を縦に振る。
「どうやら、観光地でゴルフ接待をやるそうですね」
「……そうか。尻尾を掴まれているのに、いい気なものだな」
そして、密かに入手した情報を伝えると、楓君はあの悪魔のような人を陥れる目をしながら、小さくほくそ笑む。
「お前は本当にいいのか?今回ばかりはフォロー出来ないし、引き返すなら今しかないぞ」
それから、柄にも無くこちらの心配をしてくれた事に内心驚きながらも、今更な話に可笑しくなって、私は口元を緩ませてから今度はゆっくりと首を横に振った。
「これまで散々人をコキ使ってきたくせに何を言ってるんですか?私だってもう後に引けないところまで来ているんですから」
本当に、あれだけ拒否したのに結局私は秘書にされてしまい、この男の目的に深く関わってしまった。
その結果、この会社の闇が更に浮き彫りにされ、それを知ってしまった以上、私はもうこの男に付いて行かざるを得なくなってしまったのだから……。
「それじゃあ、覚悟は出来てるな?」
「愚問ね」
おそらく、そんな私の心境をこの男は既に承知の上なのだろう。
むしろ、そうさせるように仕向けていたのかもしれない。
だから、白々しく訊いてくる質問がとてもバカバカしく思えて、私は吐き捨てるように即答する。
___現在。
「……はあ〜」
私は明日から始まる海外出張の資料を渡すため、個室に入り彼の顔を見た途端、思わず大きな溜息が漏れ出てしまった。
「何だよ。部屋に入るなり辛気臭いな」
そんな私の特大の溜息が癪に障ったのか、楓君はパソコンの画面から視線を外し、眉間に皺を寄せながら私を睨みつけてくる。
「ちょっと昔のことを思い出しまして。……それと、困るんですよ。もっと節度をわきまえて頂かないと」
私はこれまでの不満が沸々と湧き起こる中、何とかそれを抑えながら、負けじと彼の目を見据える。
「あんな出入りが頻繁な所で天野様とイチャつかれたら後始末が大変なんです。一応混乱を防ぐ為に、受付の方は婚約者だということにしてくれたみたいですけど……。全く、こっちの心臓が持ちませんよ」
「へえー、ここの受付嬢は優秀だな」
天野様と恋人になれたことは個人的に喜ばしいことだけど、浅野家との縁談が継続されている中、軽率な行動は慎むようにと戒めているのに、この男には全く響いていないどころか、とても満足気な表情を浮かべる始末。
「まあ、あそこではもうしないから安心しろよ」
挙げ句の果てには、天野様と随分よろしくやっていたのか、顎に手をあてて、何とも幸せそうな惚気た表情で明後日の方向に視線を向ける彼の姿に私は愕然とする。
本当に、この男は今まで私が見てきた奴と同一人物なのだろうか。
ある時は目的の為に簡単に枕営業をして、ある時は人の首を平気で切り捨ててきて、それ以外にも彼の非道な行いを私は沢山知っている。
そんな男が一人の女性によってここまで変わってしまうとは。これ程までに愛に溺れていくとは。
やっぱり、人生何が起こるか分からないものなんだと。
つくづくそう思った私は、これ以上責めても無駄だということを悟り、軽くこめかみを抑えた。
「それより、例の案件はどうなった?」
すると、腑抜けた表情から一変していつもの冷めた表情に戻り、仕事モードに切り替わった彼の問い掛けに対して、私は無言で首を縦に振る。
「どうやら、観光地でゴルフ接待をやるそうですね」
「……そうか。尻尾を掴まれているのに、いい気なものだな」
そして、密かに入手した情報を伝えると、楓君はあの悪魔のような人を陥れる目をしながら、小さくほくそ笑む。
「お前は本当にいいのか?今回ばかりはフォロー出来ないし、引き返すなら今しかないぞ」
それから、柄にも無くこちらの心配をしてくれた事に内心驚きながらも、今更な話に可笑しくなって、私は口元を緩ませてから今度はゆっくりと首を横に振った。
「これまで散々人をコキ使ってきたくせに何を言ってるんですか?私だってもう後に引けないところまで来ているんですから」
本当に、あれだけ拒否したのに結局私は秘書にされてしまい、この男の目的に深く関わってしまった。
その結果、この会社の闇が更に浮き彫りにされ、それを知ってしまった以上、私はもうこの男に付いて行かざるを得なくなってしまったのだから……。
「それじゃあ、覚悟は出来てるな?」
「愚問ね」
おそらく、そんな私の心境をこの男は既に承知の上なのだろう。
むしろ、そうさせるように仕向けていたのかもしれない。
だから、白々しく訊いてくる質問がとてもバカバカしく思えて、私は吐き捨てるように即答する。