3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜

第17話.友情



「……ああ、寒いです。」

季節は冬本番に迫っているけど、軽井沢の地は既に完全なる冬を迎えており、早番の出勤時には積雪がある日もしばしば。

やはり都内とは環境が違うのだと改めて実感する私は、襲いかかってくる厳しい寒さに身を縮こませながら、まだ日が昇りきっていない空の下、白い息を吐く。

紅葉シーズンが過ぎ、閑散期に入ったこの時期は有給も取りやすいので、周りでは長期休暇をとって旅行に行く方々がちらほら出始めてきている。
なので、私もこれを機に一度都内へ帰ろうかとも思ったけど、向こうへ行ってしまうとまたここへ戻るのが辛くなりそうなので、やはり彼が迎えに来るまでは大人しく待つことにした。

それよりも、今日はいよいよ白鳥様と会う約束の日なので、定時で上がる為にも余計な事は考えず、いつも以上に仕事に集中していこうと、私は気合を入れ直してホテルへと向かう。




「天野さん、今日はやけに機嫌が良さそうね?」

出勤してすぐ更衣室で制服に着替えて事務室へと入るや否や、既に出勤していた門井主任に早速私の心境を言い当てられてしまい、思わず肩が小さく震えた。

「そんなに顔に出てますか?」

平静を心掛けているつもりなのに、何でこうも私は周囲に気持ちがバレてしまうのか。
自覚がない分どう隠せば良いのか分からず、とりあえずここは大人しく認めようと笑顔で応える。

「実は……今日都内の友人が遊びに来てくれるんです」

そして、白鳥様のことをどのように説明すればいいか迷ったけど、とりあえず僭越ながら友人と呼ばせてもらうことにして、私は今日のことを門井主任に包み隠さずお話しした。

あれから、私は門井主任やその周りの方々と少しづつ打ち解けるようになり、こうして始業前は楽しく世間話をするまでに関係が進展してきたのだった。

始めは孤立することは致し方がないと覚悟していたけど、やっぱり寂しさは拭えないので、このように皆さんとお話し出来るようになれたことは心から嬉しくて、安心する。

「そういえば、仕事も落ち着いてきたし、そろそろ天野さんの歓迎会でもしようかって話が出ているんだけど、予定どう?」

「あ、ありがとうございます!私は今のところ特にないので皆さんに合わせますよ」

そして、更には怒涛の転勤でそんな事はすっかりと頭から抜け落ちていた為、まさか歓迎会を企画して下さっていたとはつゆ知らず。思いがけないお誘いに感極まって涙が出そうになる。

「宮田さんも天野さんの歓迎会に参加するわよね?」

それから、私達の事情を全く知らない門井主任は、笑顔で今来たばかりの彼女に尋ねてきたので、私はつい顔が引き攣ってしまった。

「当たり前じゃないですかあ。何ならお店は私が探しますよ。ここは下っ端の役割ですから」

そう満面の笑みで最もらしいことを言ってくる彼女の笑顔が素直に喜べず、おそらく裏ではきっとそうは思っていないのだろうと勘繰ってしまい、どんどん負の思考に陥ってしまう。

とりあえず、あの時彼女の要求をきっぱり突っぱねたので、あれから沈黙は続いているけど、また何時行動に移すかも分からないので油断は出来ない。

今まで周囲にそんな人はいなかったので、こうして誰かを疑うことはしたくないのに、彼女からは相変わらず敵意しか感じられず、この緊迫した状況にも段々と限界を感じ始めてきた。

せっかく周りと良好な人間関係が築けそうなのに……。

誰か一人でもそういう方がいると、明るい兆しもそこまでの輝きが見られず、気持ちもなかなか持ち上がらない。

あまり意固地になっていると、もしかしたら結果的に楓さんに迷惑をかけるかもしれないので、それならいっそ、ここは彼に相談するべきなのか。けど、やはり自分の身のことで負担をかけるのは事はなかなかに抵抗がある。

おそらく、そんなことを言ったら、また楓さんは怒ってしまうのかもしれないけど……。

結局一人で考えていても堂々巡りをするだけなので、ここは思い切って白鳥様に相談してみようと。
楓さんに打ち明けるよりはまだ、彼女に話した方が少し気楽ではあるので、私は今夜宮田さんのことを話そうと心に決めた。
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