3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「……それにしても、白鳥様が羨ましいです。一日中楓さんのお側に居られるんですから」

ひとまずこの話はもう止めることにして、話題を切り替える為に、私は常日頃から思っていたことを正直に口にしてみる。

仕事だから仕方のない話なのは分かっているけど、圧倒的に自分よりも彼と過ごす時間が多い秘書という役割は少しだけ嫉妬心を感じてしまう。

そんな自分はなんて卑しい人間なんだろうと思うけど、こうして会う事すら出来ない今、それが顕著に表れてしまい愚痴みたいになってしまった。

「…………え?」

すると、一間置いてから白鳥様の顔が酷く歪み始め、これまたこんな感情を露わにする姿も珍しいと思いながら、明らかに嫌そうな反応を示したことに、私は何か不味い事を言ってしまったのかと戸惑ってしまう。

「出来るなら今直ぐにでも誰かに全てを引き継いで、平穏な暮らしがしたいです」

そして、何やら遠い目をしながらしみじみと言う様子に、一体楓さんの秘書とはどれ程のものなのか益々気になり始めていく。

「そもそも、ここまで来て今更な質問ですが、天野様は本当に楓様でいいんですか?あまりにも彼は天野様と真逆のタイプなものですから」

しかも、突然彼を卑下したような言い方に、私は一瞬面をくらってしまった。

そう言えば、竜司様から過去の話を聞いてしまった時も、楓さんは私に愛される事を少し躊躇っていらっしゃった。

その上、白鳥様からもそんな事を言われるとなると、きっと彼は私が想像出来ないような事を色々してきたのだと思う。


…………けど。


「私は楓さんじゃないとダメなんです」

あの時もそうだけど、誰に何と言われようともこの気持ちが全てなので、私は恥じらう事なく真っ直ぐとした目で白鳥様を見据える。

「……どうやら、その部分に関してはお二人とも似た者同士みたいですね」

暫しの間沈黙が流れた後、白鳥様は少し呆れたように小さく溜息をはいてから、穏やかな口調でそう言うと、私に優しく微笑んで下さった。

これまで白鳥様が感情を表に出す機会なんて殆どなかったけど、久しぶりに再会してからはいつも以上に彼女の笑う姿が見られ、私もそれが嬉しくて釣られて笑顔になる。


そうこうしていると、注文した料理がようやく出て来たので、私達はそこで一旦会話を止めて、美味しいと評判の信州そばの味を堪能することにした。

とりあえず、定番のざる蕎麦天麩羅セットをお互い注文し、早速蕎麦を一口食してみると、そば粉の濃い味が滲み出てきて、麺も腰があり、喉越しも良く、現地で食べるものはやはり違うなと改めて感じる。

私は割と直ぐその場で味の感想を言いたくなるタイプだけど、楓さんと性格が似ている白鳥様は一体どうなんだろうと視線を向けてみると、案の定。やはり彼女も何も言わず黙々と食べ続ける姿に、私は何だか笑いが込み上がってしまう。
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