3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
__百合さんと食事をしてから数日が経過。
あれから、宮田さんの私に対する振る舞いが180度変わり、注意をしても反抗する事はなくなって、アドバイスもすんなり受け入れてくれて、脅しをかけてくる事もなくなった。
まるで人が変わったように友好的な態度へと変わり、職務にも真面目に取り組むようになり、これが本心からなのか、それとも建前なのか。どちらかは分からないけど、結果的には彼女にとって良い方向に向かっているので、本当に百合さんには感謝してもしきれないくらいだった。
こうして、ようやく全ての蟠りがなくなり、私は晴々とした気持ちで軽井沢リゾートホテルの勤務を続けてから早一ヶ月が経つ頃。
気付けば周りはクリスマスモード一色に変わっていて、当ホテルも期間限定のサービスがあるので、クリスマスイブ前後は宿泊客が一気に集中し始めたのだった。
「……あー。世間ではクリスマスイブなのに、それすらも満喫出来ないなんて、本当に私達ってイベント事には全くの無縁ですよね」
今日も朝からほぼ予約で一杯の客室整備を行う中、宮田さんは仕事の合間に特大の溜息を吐くと、不服そうな面持ちで愚痴をこぼしてくる。
「確かに。前のホテルでもそうでしたが、周りの人達が少し羨ましいです」
そんな彼女の不満に激しく共感する私は、思わず首を何度も縦に振ってしまった。
今は楓さんと離れ離れになってしまっているけど、いずれ彼の元へと戻れた時、こういう日を一緒に過ごすことが出来たらどれだけ素晴らしいか。
特に、クリスマスなんて恋人達にとってうってつけのイベントなので、私も周りの方々みたいに楓さんと素敵なディナーをしてイルミネーションを観たり、若しくはこじんまりとホームパーティをした後、あの広いテラスでお酒を飲みながら夜景を満喫したりと。
これまでずっと恋人とのクリスマスを経験することがなかったので、やりた事が沢山浮かび上がり、妄想がどんどんと膨れ上がる。
「あーあ。私も彼氏とお泊まりデートしたかったのに、来年は絶対有給取ろう」
「そうですねー……。……って、宮田さん恋人いたんですか!?」
そのまま危うく彼女の話を聞き流してしまいそうになる手前、まさかの彼氏発言に私は驚きのあまり仕事中にも関わらず、つい声を張り上げてしまった。
「あ、言ってなかったでしたっけ?最近付き合い始めたんですよー。しかも、相手は大手では無いですけど、最近立ち上げたばかりのIT会社のイケメン社長です」
そして、満面の笑みを向けながらこれまた信じられない話に私は開いた口が塞がらない。
「以前彼がここへ宿泊した時忘れ物をしたんです。それに直ぐ気付いて連絡して渡したら、よっぽど大事な物だったみたいで凄く喜んでて」
それから頬を緩ませて何とも幸せそうな表情で馴れ初めを語り始める宮田さんの話を、私はただ唖然と聞いていた。
「それで、どうやら向こうは私に一目惚れして、私的にもタイプだったので、自然な流れで連絡先を交換したら、気付いたらこうなってました」
繁忙期で、こんな立ち話をしている余裕なんてない筈なのに、止まらない彼女の惚気話を私も遮る事なく、つい聞き入ってしまう。
「天野さんの彼氏には到底叶わないですけど、そのうち彼の会社も大きくなれば、きっと私も夢が叶う筈です!なので、天野さんも早くそうなれればいいですねー。それじゃあ、次の場所行ってきまーす」
そう言って宮田さんは話を切り上げると、終始笑顔のまま軽い足取りでこの場を後にしたのだった。