3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「あっ、天野君!」  

その時、今度は脇から御子柴マネージャーに声を掛けられ、私達の会話はそこで中断し、慌てて一礼をする。

「お話中のところごめんね。実は、明日遅番の人が急遽休みを取るから、その代わりに天野さん入れるかな?」

そして、急なシフトチェンジの要望に対し、普段なら快諾出来る筈なのに、今は返答に躊躇ってしまい、無意識に表情が強張ってくる。

「……は、はい。大丈夫です」

けど、特段用事がある訳でもないので拒否する事も出来ず、私は首を縦に振ると、何とか作り笑いを浮かべて見せた。



「天野先輩本当に大丈夫ですか?何か様子が変ですよ?」

御子柴マネージャーを見送り、暫く呆然と立っていると、そんな私の異変に気付いた桜井さんは心配そうな面持ちでこちらの顔を覗き込んでくる。

「……っあ、い、いえ。何でもないですよ。最近遅番が続いてたので、ちょっと疲れているだけですから」

「それなら断った方が良かったんじゃないですか?先輩頑張り過ぎるところあるから、心配です」

つい自分の心境が表情に漏れ出てしまった事に不甲斐なさを感じ、取り繕ってみせるも、逆にとても気遣われてしまい、またもや桜井さんに申し訳なさを感じてしまう。


……そう、私にとって遅番の時間帯は正に恐怖でしかない。

早番は朝九時から午後六時までが勤務時間の為、いつも九時過ぎ頃にチェックアウトをし、夜遅くチェックインする東郷様と会う事はまずない。

なので、夜遅い勤務ではない限り、平穏な一日が保証される。


今までは遅番勤務だったので、昨日からようやく早番に切り替わり、安心しきっていたというのに……。
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