3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
__それから、数日後。
櫻井さんと再会出来た余韻に浸りながら、私は少し遅めの朝食を摂るため、冷蔵庫から昨日買ったパンを取り出した。
今日は遅番のため、トーストを焼いている間に私は最近見つけたお気に入りのコーヒーを煎れながら、午前中のゆったりとした時間を過ごそうとテレビを付けた。
外はまだ雪が残っているけど、暦の上ではもうとっくに春を迎えていて、あと一ヶ月ちょっとで軽井沢に来てから半年を迎えることになる。
そんな月日の流れの早さをしみじみと感じながら、焼きあがったトーストをテーブルに運んだ時だった。
「それでは次のニュースです。万博組織委員会元理事官は、万博スポンサー選定で便宜を図ったことへの謝礼として、東郷グループの役員である東郷会長の長男、東郷竜司から総額五千万円の賄賂を受け取ったとして、受託収賄の疑いで東京地検特捜部に逮捕されました。尚、この関与が発覚したのは東郷グループ社員の内部告発によるもので……」
…………え?
突如耳に飛び込んできたニュースに、動きが固まった。
それから、暫くその場で立ち尽くし、私は呆然としながらテレビに目を向ける。
そして、その内容を理解するまでにしばしの時間を要した。
今確かに、竜司様の名前が読み上げられていた。加えて、それは社員の内部告発によるものであるということも。
そう頭の中で整理をし始めていく中、私はハッとある事に気付く。
まさか、楓さんがやろうとしていたのは、この事だったのでは。
そう思った瞬間、これまでの出来事が脳裏に浮かび上がる。
以前竜司様とホテルで会った時、えらく挑発的な態度をとっていたことや、懇親パーティーの時、まるで監視するように百合さんにこっそり指示をしていたこと。
もしかしたら、私と出会う前から、彼はこの事に気付いてずっと調査をしていたのかもしれない。
そして、それを今ここで明らかにした。私を取り戻すために。
確かに、こんな事件が発覚すれば結婚どころではなくなると思うし、これから身内になろうとする家に犯罪者が居ると分かれば、最悪婚約を解消されてもおかしくない。
「……まさか、楓さんはそれを狙って……?」
そう確信付いた時、私は体の力が抜けて、思わずその場でしゃがみ込んでしまった。
もしそうなれば、私は楓さんの元へ帰れる可能性は高まるし、東郷家に対する復讐も達成出来る。
けど、これまで躍起になって働いていた会社を、自ら陥れるなんて……。
本当ならすぐにでも彼に連絡をしたい。
しかし、今はそれどころではないはず。
これまで連絡がぱたりと途絶えてしまったのは、きっとこの為だったからなんだと。
ようやくここで全貌が明らかになり、私は暫くしゃがみ込んだままその場から動くことが出来なくなってしまったのだった。