3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜

未だ頭の中が整理されていない中出勤すると、やはりホテル内でも騒然としていて、周りでは皆例の話題で持ちきりだった。


「っあ、天野さん待ってましたよ。ニュース見ましたよね?まさか、東郷家で逮捕者が出るなんて……。彼氏さんからは何か聞いてたんですか?てか、東郷グループは大丈夫なんですかね?」

更衣室で制服に着替えた後、事務室へと入るや否や、宮田さんに見つかり、すぐさま通路へと連れて行かれ、早速尋問責めに会う。

「いいえ。楓さんからは何も。私もまだ信じられなくて。……会社的には確かに信用問題に繋がりますが、上層部個人のやり取りなので、おそらくそこまで大きな経営問題に直面するようなものではないと思います」

私は一呼吸置いてから気持ちを落ち着かせ、冷静な態度でゆっくと桜井さんにそう諭した。

「内部告発って言ってましたよね。確かに不正は良くないですが、組織委員会や東郷家の人間相手によく出来たと思いますよ」

そんな私の話に納得したのか。桜井さんは安心したように小さく息を吐くと、今度は渋い顔をしながら言った言葉に、私は激しく同意する。
けど、その告発者が楓さんであるなら、きっと彼は相手が誰であろうと関係ないのでしょう。

そう思いながら、一先ずどんな事であれ、業務を疎かにするわけにはいかないので、これからの仕事にしっかりと集中するよう気を引き締めた。


その後の事務連絡の時も、開口一番にマネージャーから話が出たけど、私が思っていた事と同じような指示をされたので、そこからは汚職事件に関する話題は私達の間で控えるように心掛けた。



それからというもの、業務中に常連客から心配の声が掛けられたり、休憩時間の間だけは同僚の方々と少し話をしたりと。

やはり皆さん混乱はしているようだけど、直接自分達に関わるような話でもないので、自社のことではあるけど何処か他人事みたいな雰囲気はあった。


そして、その数日後には東郷代表の謝罪会見があったものの、そこに楓さんの姿はなかった。

肝心の賄賂を受け取ったとされる元理事官は容疑を否認しているようだけど、その後の調べで自社以外にも便宜に関与している企業が存在する事が判明し、おそらく今後の捜査で順次事件の真相は明らかになっていくのだと思う。
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