3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
それから更に数日が経過して、少し落ち着いた頃、瀬名さんや桜井さんから連絡が入り、宮田さんと同じような事を聞かれた後、私の身の上を案じて下さった。

私自身もようやく気持ちの整理がつき、後は彼からの連絡を待つだけなので、二人にはその心境をしっかりと伝えた。

そして、都内ホテルの状況を確認したら、向こうでも騒然としたけど、特に経営に問題はなく通常と変わらない旨を教えて下さったので、お互い安心して電話を終了させたのだった。


こうしてまた日数が経ち、テレビで汚職事件についてそこまで取り上げられなくなった頃、私はいつものように午前中の仕事を終えてお昼休憩に入ろうとした時だった。

突然個人用携帯が鳴り出し、私は何気なくポケットから取り出した瞬間、その場で固まる。

そこに表示されていたのは、これまでずっとずっと待ち続けていたある人物の名前。

ようやくその時が訪れ、段々と涙腺が緩み始めていく中、私は震える手で通話ボタンを押し、携帯を耳にあてる。

「か、楓さん……」

何とか絞り出した声は震えてしまい、少しでも気を緩むと今すぐにでも泣きそうになるので、私はそこを堪えて彼の応答を待つ。

「美守、今日のシフトは?」

それなのに、ほぼ二ヶ月振りの会話であるにも関わらず、楓さんは余計な話はせず、まるで急かすように冷めた口調ですかさずそう尋ねてくる。

「え、えと、今日は早番ですが……」

一体何故今そんな事を訊いてくるのかが分からず、更に口を開こうとした時だ。

「分かった。仕事が終わったらロビーで待ってろ」

有無を言わさず命令口調でそう言われると、こちらの反応を待たずに楓さんは一方的に通話を終了してしまい、私は困惑したままその場で佇んでしまった。


待ってろって、一体……。


それから、彼の言葉がようやく頭に入り始めた頃、ある考えが浮かび上がり、その瞬間徐々に体が震えてきた。


まさか、楓さんはこれからこちらに……。


そう思うと、もうそれしか考えられなくなり、もはや涙腺は崩壊する一歩手前だった。

けど、仕事中である今は泣くわけにもいかないので、私は歯を食いしばって自分の感情を必死で抑える。

そして、この心境を誰にも悟られないよう、昼休みの間に気持ちを何とか落ち着かせて、平静を取り繕って午後の仕事に集中した。
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