3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
それから車に乗り込むまでの間、私達は一言も言葉を発することはなかった。
本当は聞きたいことや話したい事が山程あった筈なのに、私の側に今彼が居ると思うと、そんなことは全て頭から抜け落ちてしまって、残っているのはこのひと時に集中したい想い、ただそれだけ。
「……あの、そちらの方はもう大丈夫なのですか?」
とりあえず、自然な流れで助手席に座ったものの、楓さんは一向に口を開くことなく、暫く長い沈黙が続いたので、先ずはこの状況を打開しようと私は口を開く。
「ああ、とりあえずはな。……まあ、始めから分かっていた事だから準備はしていたし、まだやる事は沢山あるけど、それよりも先に美守に会いたかったから……」
その後に、ようやく喋り出してくれた楓さんは、相変わらず無表情のまま、ゆっくりと近況を語ってくれた。
「私も楓さんに凄く会いたかったですし、凄く嬉しいです。……けど、正直驚きました」
そして、自分も胸の内ぽつりぽつりと話した後、視線だけを彼の方へと向ける。
「もともと、この案件は俺が結婚するまで寝かせておくつもりだったんだ。でも、美守を手離さないと決めた時、出すならここしかないと思った」
そう静かに語りながら一点を見つめる楓さんの目はとても凛としていて、そこから強い意志が感じ取れた。
「それじゃあ、婚約は……」
「案の定、向こうは余計な火の粉が振りかかるのを恐れて見送ってきた。だから、もうこれで俺は堂々と美守の側に居られる」
何となく予想は出来たけど、一応確かめてみようと尋ねたところ、楓さんは私の言葉を最後まで待たずに、食い気味に状況を教えてくれた。
「それでは、楓さんのこれまでしてきた事はどうなるのでしょうか……?」
本当は心の底から嬉しいけど、以前泉様に言われた、彼の地位と未来の話が引っ掛かり素直に喜べない。
なので、ここまでしてくれた彼に掛ける言葉ではないのは重々承知の上だけど、それが気になり、つい余計な質問をしてしまった。
すると、楓さんはいつになく真剣な面持ちへと変わると、私の目を真っ直ぐと見据えてくる。
「前にも言ったけど、欲しいと思うものはただ一つで、それ以外のものは何もいらない。だから、それを手に入れる為なら何だってする。……俺はそういう人間だって知ってるだろ?」
それから、最後には不敵な笑みを浮かべて、琥珀色の目を光らせてきた。
……ああ、そうでした。
彼はそうやって強かで、孤高で、野心家で、貪欲で、捉えた獲物は最後まで離さない。
まるで、狼みたいな方。
「……楓さん……」
改めて彼のことを認識した時、私はどんどんと溢れ出す愛しい気持ちに押し潰されそうになり、堪らず彼の名前を呟く。
「とりあえず、ようやく状況が落ち着き始めたから、明日は東郷家に行って今後の話をする予定だ。その時に美守を都内勤務に戻すよう説得する。……まあ、もう離す意味もないけどな」
お互い暫く見つめ合った後、楓さんは私から視線を外すと、小さく息を吐き、落ち着いた口調で事情を説明してきたので、私はそのまま黙って彼の話に耳を傾ける。
「だから、今度の異動に備えて準備しておいて欲しい。今日はそれを直接伝えたかったんだ」
それから、そこまで話すと再び視線を戻し、真剣な目で言われた彼の言葉に私は心を打たれた。
ついに、あのホテルに戻れる。
まだ確証はないど、彼がそう言うのだからほぼ間違いないのだと思う。
もし、そうなれば軽井沢勤務も始めは大変だったけど、今ではとても充実しているので、ここを離れるとなると後ろ髪を引かれる思いはある。
けど、それでもあの場所は私にとって大切で、大事な人達がいる。だから、帰る事が出来るのから、早く帰りたい。
…………でも。
そうなる前に、私もやらなければいけない事がある。
「あの、楓さん。一つお願いがあります」
私は意を決して小さく拳を握りしめると、真剣な表情で彼の方へと向き直す。
「私を東郷家に連れて行って下さい」
そして、楓さんの返事を待たずに、自分の胸の内をはっきりと伝えた。
本当は聞きたいことや話したい事が山程あった筈なのに、私の側に今彼が居ると思うと、そんなことは全て頭から抜け落ちてしまって、残っているのはこのひと時に集中したい想い、ただそれだけ。
「……あの、そちらの方はもう大丈夫なのですか?」
とりあえず、自然な流れで助手席に座ったものの、楓さんは一向に口を開くことなく、暫く長い沈黙が続いたので、先ずはこの状況を打開しようと私は口を開く。
「ああ、とりあえずはな。……まあ、始めから分かっていた事だから準備はしていたし、まだやる事は沢山あるけど、それよりも先に美守に会いたかったから……」
その後に、ようやく喋り出してくれた楓さんは、相変わらず無表情のまま、ゆっくりと近況を語ってくれた。
「私も楓さんに凄く会いたかったですし、凄く嬉しいです。……けど、正直驚きました」
そして、自分も胸の内ぽつりぽつりと話した後、視線だけを彼の方へと向ける。
「もともと、この案件は俺が結婚するまで寝かせておくつもりだったんだ。でも、美守を手離さないと決めた時、出すならここしかないと思った」
そう静かに語りながら一点を見つめる楓さんの目はとても凛としていて、そこから強い意志が感じ取れた。
「それじゃあ、婚約は……」
「案の定、向こうは余計な火の粉が振りかかるのを恐れて見送ってきた。だから、もうこれで俺は堂々と美守の側に居られる」
何となく予想は出来たけど、一応確かめてみようと尋ねたところ、楓さんは私の言葉を最後まで待たずに、食い気味に状況を教えてくれた。
「それでは、楓さんのこれまでしてきた事はどうなるのでしょうか……?」
本当は心の底から嬉しいけど、以前泉様に言われた、彼の地位と未来の話が引っ掛かり素直に喜べない。
なので、ここまでしてくれた彼に掛ける言葉ではないのは重々承知の上だけど、それが気になり、つい余計な質問をしてしまった。
すると、楓さんはいつになく真剣な面持ちへと変わると、私の目を真っ直ぐと見据えてくる。
「前にも言ったけど、欲しいと思うものはただ一つで、それ以外のものは何もいらない。だから、それを手に入れる為なら何だってする。……俺はそういう人間だって知ってるだろ?」
それから、最後には不敵な笑みを浮かべて、琥珀色の目を光らせてきた。
……ああ、そうでした。
彼はそうやって強かで、孤高で、野心家で、貪欲で、捉えた獲物は最後まで離さない。
まるで、狼みたいな方。
「……楓さん……」
改めて彼のことを認識した時、私はどんどんと溢れ出す愛しい気持ちに押し潰されそうになり、堪らず彼の名前を呟く。
「とりあえず、ようやく状況が落ち着き始めたから、明日は東郷家に行って今後の話をする予定だ。その時に美守を都内勤務に戻すよう説得する。……まあ、もう離す意味もないけどな」
お互い暫く見つめ合った後、楓さんは私から視線を外すと、小さく息を吐き、落ち着いた口調で事情を説明してきたので、私はそのまま黙って彼の話に耳を傾ける。
「だから、今度の異動に備えて準備しておいて欲しい。今日はそれを直接伝えたかったんだ」
それから、そこまで話すと再び視線を戻し、真剣な目で言われた彼の言葉に私は心を打たれた。
ついに、あのホテルに戻れる。
まだ確証はないど、彼がそう言うのだからほぼ間違いないのだと思う。
もし、そうなれば軽井沢勤務も始めは大変だったけど、今ではとても充実しているので、ここを離れるとなると後ろ髪を引かれる思いはある。
けど、それでもあの場所は私にとって大切で、大事な人達がいる。だから、帰る事が出来るのから、早く帰りたい。
…………でも。
そうなる前に、私もやらなければいけない事がある。
「あの、楓さん。一つお願いがあります」
私は意を決して小さく拳を握りしめると、真剣な表情で彼の方へと向き直す。
「私を東郷家に連れて行って下さい」
そして、楓さんの返事を待たずに、自分の胸の内をはっきりと伝えた。