3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
その後暫く余波が残り、しがみ付いたまま軽微な痙攣が続く中、楓さんはそんな私の頭を、呼吸が落ち着くまで優しく撫でてくれた。

今まで経験したことのない感覚に、頭の中が今でもぼーっとする。体の芯の奥から溶けてしまいそうになる程痺れて、震えるくらい気持ち良くて。こんな感覚があるだなんて全く知らなかった。

……あれが“イク”というものなんですね。

確か、バトラーになりたての時、楓さんの部屋に入った途端、泉様が大きな声で言っていた台詞がそれだった。

当時全く理解出来なかったのが、今ここでようやく分かったのはいいけど、この快楽を泉様も楓さんに与えられたのだと思うと、例え愛がない営みだったとしても、今更ながらに胸を締め付けられてくる。

「み、美守どうした?何で泣いてるんだ?辛かったか?」

「……え?」
 
すると、驚いた表情で狼狽えながら尋ねてきた楓さんの問い掛けによって、初めて気付いた自分の涙。

ただぼんやりと思い浮かべただけなのに、まさかここまで体が反応してしまうなんて。
そんな自分に驚きを隠せず、私は慌てて流れる涙を拭う。

「す、すみません。違うんです。ちょっと昔のことを思い出してしまって……」

こんな場面で泉様のことを話したら、折角の雰囲気が台無しになりそうで、何とか笑顔を取り繕ってその場を誤魔化す。

「……もしかして、俺と泉がしてた時の事?」

それなのに、何故か楓さんに思考を読み取られてしまい、図星を突かれた私は何も言えなくなってしまうと、みるみるうちに彼の表情が曇り始めていく。

「あの時は本当に悪かった。……マジで最低だったな俺」

そして、とても悲しい顔で心底悔やみながら、私の涙を指で拭って謝ってくれる事に、締め付けられている胸の痛みが徐々に緩和されていった。

「もういいんです。過ぎた事ですし、今は十分幸せですから」

確かに、非道な行為ではあったけど、あの時は彼なりの都合があったし、これ以上その話に触れるつもりもなく、そもそも、彼のそんな表情は見たくない。

だから、私は楓さんの両頬に優しく掌を添えると、彼の目をまじまじと見ながらやんわりと微笑んだ。

「これからは目一杯愛して、あんな事忘れさせてやるから」

それから、ようやく強張っていた表情が緩み始めると、楓さんは私の首元に抱き付き、潤んだ目元に口付けを落とすと、今度は額に、両頬にと。
その言葉通り十分過ぎる程の沢山の愛情が降り注がれ、お陰で悲しい気持ちは綺麗さっぱり拭い取られた。

「楓さん、私……んっ」

そんな彼に負けじと、こちらも湧き起こる溢れんばかりの想いを伝えようとしたけど、その前に楓さんの唇で口を塞がれてしまい最後まで言わせてもらえなかった。

そのまま奥まで絡み付き、体がじんわりと熱くなって蕩けてしまう程とても甘く、気持ちが良い楓さんの深いキス。

それを堪能するように、呼吸を合わせて何度も何度も唇を重ねられ、舌を絡まされていくうちに、またもや体が疼き出して、積極的に彼を求めてしまう。

先程楓さんによって痺れる程の快感を味わってしまった以降、どうにも体の疼きが止まらなくなってしまい、段々と淫らな気分へと変わっていく。

まさか、自分はこんなにも情欲的な人間だったなんて知る由もなかった私は、軽いショックを感じながらも、体の欲求を止めることが出来ない。

すると、キスをしたまま、またもや楓さんの長い指がショーツの中へと滑り込んできて、恥部の入口を軽く触れた後、浅く指を入れられてしまい、思わず甘い声が漏れ出てしまう。

「……良かった。まだ十分濡れてるな……」

一体どういう意味なのか。何かを確かめてから、楓さんは小さく安堵の息を吐くと、急に私から離れて、ズボンのポケットからある物を取り出した。

「楓さん?それは?」

その手にあるのは、数センチ角の小さなビニール状の薄くて白い袋。

それが何なのか分からない私は、何故今のタイミングで取り出したのか理解出来ず、呆然と眺める。

「……マジかよ。これも知らないのか?」

そんな私を驚愕の眼差しで見てくる楓さんの反応に益々混乱し始め、何て返答すればいいの分からず狼狽えてしまう。

「コンドームだよ。学校で習っただろ」

それを見兼ねた楓さんは、深い溜息を吐くと、とても呆れた目で教えてくれた名称に、私は急激に顔が熱くなってきた。


……な、なんということでしょう!
これが、世の恋人達が営みの時に使用するという品物!?

確かに、遠い昔保健体育の授業で習った記憶はあるものの、それ以降実物をお目にかかった事はなかったので、形なんて全く覚えていない。

つまり、それは避妊具であって、それを今から楓さんのものに付けるのであって、そうなると私達はついにこれから……!?

なんて、軽いパニック状態に陥っていると、そんな私にはお構い無しに楓さんはベルトを外してズボンを脱ぎ始めたので、恥ずかしさのあまり咄嗟に両手で自分の目を覆い隠した。
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