3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
それから、私達は指を絡ませて手を繋いだまま、お互い愛の言葉を囁き合いながら、ベッドの軋む音が響く中で体を重ねる。
その度に混み上がってくる幸福感と深い愛情。
これまでも彼との距離の近さを感じていたけど、それが更に狭まったような気がして。私は楓さんのものであることがより実感出来るようで、初めて味わう痛みよりも満ち足りた気持ちでいっぱいだった。
そんな幸せな時間を噛み締めながら、私は最初から最後まで楓さんの全てを全身で受け止めると、
彼も満足気な表情で私の体を優しく抱き締めくれて、私達はお互いの呼吸が整うまでの間、暫くそのままでいた。
「……体は大丈夫か?まだ痛み残ってるだろ?」
ようやく落ち着き、私は楓さんの熱い胸板に寄り添うと、心配そうな面持ちで尚も気遣う彼の言葉に胸が締め付けられる。
「確かに、まだジンジンしていますが……楓さんをいっぱい感じる事が出来たので幸せです」
だから、凄く恥ずかしくはあるけど、この気持ちを分かって欲しくて、私は正直に胸の内を伝えた。
「だから、煽るような事言うなって。今日は一回で我慢しなきゃいけないのに、またしたくなるだろ」
今までもそうだけど、そんなつもりは全くないのに、何故か楓さんに呆れられてしまった挙句、獲物を捉えるような鋭い目を向けて言われた刺激的な一言に、体が段々と熱くなってくる。
「好きな女とするのって、こんなに良いものだなんて知らなかった……。今回は俺ばっかり良かったけど、次回はちゃんと気持ち良くしてやるから期待してろよ」
しかも、更に追い討ちをかけるように、熱い吐息混じりに艶っぽい声でそう囁かれてしまい、ぞくりと背筋が震えた。
確かに始めは凄く痛かったけど、とても優しく大切にして下さったので、そこまで辛くはなかったのに、それ以上のものを与えられてしまうと、私は一体どうなってしまうのでしょうか……。
なんて、大人の世界に足を踏み入れてしまったばっかりに、より生々しい想像をしてしまう自分が恥ずかしくなり、私はこれ以上考えないようにする為、話題を変えることにした。
「それより、ベッド小さくてすみません。窮屈ですよね?」
生憎ここは一人暮らし専用の社員寮なので、備えの布団がなく、ソファーはあるけど大人一人が寝れる程大きくはないので、ここを使ってもらうしかない事に私は申し訳ない気持ちで彼を見上げる。
「別に。こうやって美守を抱いて寝れるなら、寧ろこっちの方が良い」
けど、楓さんは嬉しそうに微笑むと、私の体を自分の方に抱き寄せてから、甘えるように顔を擦り付けてきたので、その仕草に激しく母性本能をくすぐられてしまう。
そういえば、以前泉様と廊下で鉢合わせた時、彼女は楓さんが朝まで一緒に居る事を嫌っていると嘆いていた。
でも、今の彼を見る限りだとその心配もなさそうなので、私は密かに安堵の息をはくと、自分の体を更に彼の方へと寄せる。
「……やっぱり俺が幸せだと思うのは、美守といる時だけだ。出来るなら、ずっとこうしていたい……」
すると、突然消え入りそうな声でポツリと呟いた楓さんの言葉が耳に届き、私は彼の方へと視線を向けた。
「美守が離れてから、普段のように過ごせば良いと思っていたけど……。この居心地の良さを知ってから、毎日が苦痛だった」
楓さんは私と目を合わせると、段々と憂気な表情へと変わっていき、私の頬にそっと触れる。
「これまで一人でいる事が当たり前だったのに、もうそれが出来なくなってて……。孤独がどれ程に悲しくて寂しいものなのか、改めて思い知らされたよ」
その目はとても弱々しく震えていて、まるで母親に置き去りにされてしまった子供のようで、段々と居た堪れなくなった私は、彼の体を優しく抱き締めた。
「それも、今日までですよ。これからは、楓さんにそんな思いはさせませんから」
そして、ありったけの想いを込めて、満面の笑みで彼の顔をもう一度見る。
「……ああ。そうだな」
そんな笑顔に安心したのか。影掛かった楓さんの表情に再び光が戻り始め、柔らかく微笑んでから私の存在を確かめるように、更に強く私を抱き締め返した。