3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「……それに……」
すると、私から視線を外し、何やら思い詰めた表情で今度は楓さんの方へと視線を向けてきた奥様は、何かを伝えようと口を開くも、躊躇しているのか。その先の言葉がなかなか出てこない。
楓さんもそんな奥様をただひたすら黙って見ているだけで、一向に会話がないまま二度目の長い沈黙が訪れる。
もしかしたら、彼女は彼に謝ろうとしているのかと、そんな淡い期待が私の中で徐々に見え始めようとしたところ、それに反して奥様は突然私達から顔を逸らし背を向けてしまった。
「……あなたがした事、間違いではないのは分かっているけど、暫くそれを受け入れるのは難しいわ」
やはり謝罪の言葉はなく、またもや厳しい口調で冷たく突き離されてしまい、現実はそう甘くないことを目の当たりにした私は密かに肩を落とす。
「けど、これだけは認めようと思って……」
それから、半ば諦めかけていた時、背を向けたまま聞こえるか聞こえないかの声で呟いた奥様の言葉が耳に届く。
「楓、あなた良い子を見つけたわね。……安心して。その子にはお咎めがないようにするから」
そして、首だけをこちらの方に向けて少しだけ口元を緩ませてから一言そう告げると、屋敷の方へと足早に戻って行ったのだった。
まさか褒めて頂けるとは思ってもいなかったので、私は嬉しいやら気恥しいやら複雑な心境で呆然としながら奥様の後ろ姿を眺めていると、突然向かいに立っていた楓さんの鼻で笑う声が聞こえ、そこではたと我に返る。
それから、無表情で一点を見つたまま黙って立ち尽くす楓さんの横顔に目を向けた。
一体彼は今何を思っているのか。部外者である私には彼等の深い事情までは分からない。結局奥様から楓さんに対しては何の言葉もなかったし、あの様子だと代表からも謝罪の言葉があるとは到底思えない。
確かに、楓さんと東郷家の長年の溝はこんな一日で埋まるようなものではないのでしょう。
例え私の行動が奥様にとって慰めになったとしても、それだけで心を入れ替えるとか、そんな都合のいい話なんてあるわけない。
そう思いながら、私は小さくため息を吐くと、一向に口を閉ざしたままの彼が心配になり顔色を伺う。
「楓さん大丈夫ですか?」
とりあえず声を掛けてみたところで、ようやく反応を見せた彼は、私の方へと視線を戻した。
「……ああ、悪い。ちょっと考え事してた」
それから、少し憂気な目でやんわりと微笑んできたので、その表情に不安な気持ちが募り始め、段々と眉間に皺が寄っていく。
「そんな顔するなって。ただ驚いただけだよ」
けど、そんな私の心配を拭うように、気付けばいつもの柔らかい表情へと戻っていた楓さんは私から視線を外すと、今度は思い馳せるような目で遠くを見つめ始めた。
「これまであの人が俺の名前を呼んだことなんて、一度もなかったからな……」
そして、意味深長に呟いたその一言から彼の想いがひしひしと伝わってくるようで、私は思わず涙が溢れそうになるのを必死に堪えた。
例え綺麗な形じゃないにしても、今日という日が大きな一歩へと繋がっていくように。
そうなることを信じて、私は彼等のこれからの明るい未来を切に祈った。
すると、私から視線を外し、何やら思い詰めた表情で今度は楓さんの方へと視線を向けてきた奥様は、何かを伝えようと口を開くも、躊躇しているのか。その先の言葉がなかなか出てこない。
楓さんもそんな奥様をただひたすら黙って見ているだけで、一向に会話がないまま二度目の長い沈黙が訪れる。
もしかしたら、彼女は彼に謝ろうとしているのかと、そんな淡い期待が私の中で徐々に見え始めようとしたところ、それに反して奥様は突然私達から顔を逸らし背を向けてしまった。
「……あなたがした事、間違いではないのは分かっているけど、暫くそれを受け入れるのは難しいわ」
やはり謝罪の言葉はなく、またもや厳しい口調で冷たく突き離されてしまい、現実はそう甘くないことを目の当たりにした私は密かに肩を落とす。
「けど、これだけは認めようと思って……」
それから、半ば諦めかけていた時、背を向けたまま聞こえるか聞こえないかの声で呟いた奥様の言葉が耳に届く。
「楓、あなた良い子を見つけたわね。……安心して。その子にはお咎めがないようにするから」
そして、首だけをこちらの方に向けて少しだけ口元を緩ませてから一言そう告げると、屋敷の方へと足早に戻って行ったのだった。
まさか褒めて頂けるとは思ってもいなかったので、私は嬉しいやら気恥しいやら複雑な心境で呆然としながら奥様の後ろ姿を眺めていると、突然向かいに立っていた楓さんの鼻で笑う声が聞こえ、そこではたと我に返る。
それから、無表情で一点を見つたまま黙って立ち尽くす楓さんの横顔に目を向けた。
一体彼は今何を思っているのか。部外者である私には彼等の深い事情までは分からない。結局奥様から楓さんに対しては何の言葉もなかったし、あの様子だと代表からも謝罪の言葉があるとは到底思えない。
確かに、楓さんと東郷家の長年の溝はこんな一日で埋まるようなものではないのでしょう。
例え私の行動が奥様にとって慰めになったとしても、それだけで心を入れ替えるとか、そんな都合のいい話なんてあるわけない。
そう思いながら、私は小さくため息を吐くと、一向に口を閉ざしたままの彼が心配になり顔色を伺う。
「楓さん大丈夫ですか?」
とりあえず声を掛けてみたところで、ようやく反応を見せた彼は、私の方へと視線を戻した。
「……ああ、悪い。ちょっと考え事してた」
それから、少し憂気な目でやんわりと微笑んできたので、その表情に不安な気持ちが募り始め、段々と眉間に皺が寄っていく。
「そんな顔するなって。ただ驚いただけだよ」
けど、そんな私の心配を拭うように、気付けばいつもの柔らかい表情へと戻っていた楓さんは私から視線を外すと、今度は思い馳せるような目で遠くを見つめ始めた。
「これまであの人が俺の名前を呼んだことなんて、一度もなかったからな……」
そして、意味深長に呟いたその一言から彼の想いがひしひしと伝わってくるようで、私は思わず涙が溢れそうになるのを必死に堪えた。
例え綺麗な形じゃないにしても、今日という日が大きな一歩へと繋がっていくように。
そうなることを信じて、私は彼等のこれからの明るい未来を切に祈った。