3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「……あ、あの。失礼致します。お食事をお持ち致しましたので、こちらにセットさせて頂きますね」

とりあえず、初めてしっかりとお声掛けをしてみたものの、全くの無反応で、相変わらずの存在無視。

今までは行為に及んでいるから仕方ないと思ってきたけど、一人の時はせめてお返事ぐらいはしてもいいのではないかと、心の中で不平を漏らす。



「では、失礼いたしました」

一先ず広いダイニングテーブルにお料理を並べ終え、役目を終えた私は一礼すると、さっさとこの場を離れる為に踵を返した時だった。


「……なあ、あんた」

突如背後から呼び止める声が聞こえ、何かと思い振り返ると、ようやくこちらに視線を向けてくれた東郷様と目が合った。

そこで、初めてしっかりと確認する事が出来た東郷様のお顔。

小顔で少し吊り上がった切れ長の大きな目に、首筋まで襟足が伸びている漆黒のサラサラな髪。鼻筋も通っていて中性的な美形顔に一瞬心が奪われそうになった。

しかし、その綺麗な顔立ちが急に歪み始め、何故か思いっきり睨まれてしまう。

「前もそうだけどいちいちインターホン鳴らすのやめてくれない?鬱陶しいんだよ。出る気ないからもう押すな」

そして思わぬ苦情を受けてしまい、私は内心慌てふためくも、東郷代表の御子息様である手前、粗相がないよう勢いよく頭を下げた。

「申し訳ございません。以後気をつけます!」

間違った事はしていないけど、何事もお客様の要望にお応えするのがホテルマンとしての役目。

なので、私は感情を抑えて平常心を保ち、直さま謝罪の言葉を述べた。
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