3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
その後、東郷家を出てから暫く車を走らせていると、私達は官公庁密集地にある広い公園へと到着した。
今日は休日とあり、園内はお昼を過ぎた時間帯でも家族連れやカップル達で賑わっていたけど、その中で私達は終始無言のまま噴水のある所まで向かう。
程なくして目的地に着くと、そこには既に泉様の姿があり、ベンチに座って何をするでもなく遠くを眺めていた。
「…………あ」
すると、ふとこちらの存在に気付いた泉様は楓さんの姿を目にするな否や少しだけ表情が明るくなるも、その隣で立っている私にも視線を向けた途端、一気に顔付きが険しくなった。
「久しぶりに楓さんから連絡があったので、期待していたのですが……。まさか、あなたまで一緒だったとは……」
それから、敵意剥き出しで私を睨み付けると、泉様は深い溜息を吐いてその場から立ち上がる。
「酷いです。その女を好きになる事は百歩譲って認めますけど、私にそれを見せ付けに来たのですか?そんなに私の事が嫌でしたか?」
そして、今度は目に涙を浮かべながら縋り付くように楓さんの方へとにじり寄ってきた。
見ると以前会った時よりも少し顔がやつれていて、薄らと目にクマが出来ている。
やはり、婚約破棄されて以降相当なショックを受けていたのがその表情からでもよく分かり、泉様の気持ちが痛い程理解できる私は胸の奥がキリキリと痛み出す。
「違う。今日は謝りに来たんだ」
そんな取り乱す泉様とは裏腹に、楓さんはとても落ち着いた様子で彼女の目をじっと見据えると、静かにそう答えた。
「……え?か、楓さんが私に?」
それが泉様にとってはかなり驚きだったようで、目を丸くしながらその場で狼狽え始める。
「今まで泉が俺をどう想っているかなんて全く興味がなかったけど、前に美守に言われて分かったんだ。……だから、お前の気持ちを無下にして振り回した事は本当に申し訳なかった」
けど、楓さんは気にする事なく真剣な表情で真っ直ぐと自分の気持ちを伝えた上に、深く頭を下げてきたので、泉様は勿論のこと。私までその姿に驚愕してしまった。
これまで私も楓さんには何度か謝られた事があるけど、ここまではっきりと謝罪の言葉を述べて頭を下げるのは初めて見た気がする。
泉様は暫く口を開けたまま固まっていたけど、強張っていた顔が緩み始め、徐々に穏やかな表情へと変わっていく。
「驚きました。まさか、楓さんがそこまで私の事を気にして下さっていたなんて。今まで全く見向きもされなかったので、破談されてもきっと何事もなかったように見捨てられて終わるんだとばかり思っていました……」
それから声を震わせながら、おそらく今度は違う意味での涙を浮かべて、泉様は彼を愛おしそう目で見つめた。
確かに、以前の楓さんなら十分あり得る話だったかもしれない。けど、今はこうして泉様に対する誠意をしっかり伝え、思い遣りを示している事に、私も軽い感動を覚えた。
「…………好きな人間に裏切られるのは、想像しただけで怖くて辛いから……」
すると、ポツリと寂し気に小声で呟いた楓さんの独り言が耳に入り、軽いショックを受けた私は咄嗟に彼の方へと視線を向ける。
しかし、直ぐまた凛とした表情に戻ると、何やら私を一瞥してから再び視線を泉様の方に戻した。
「それに、例えこのまま結婚に結びついてたとしてもお前にとっては何の特にもならないし、むしろマイナスだ」
そして、力強くそう断言してきた事に、泉様はまたもや戸惑いの目で彼を見上げる。
「そ、そんな事はありません!私は、私の存在が楓さんにとってプラスになれればそれで十分なんです。だから……っ!」
「十分なわけないだろ。愛されない事がどれだけ寂しくて、悲しいか、今の俺なら痛い程よく分かる」
拳を握りしめ、いつぞやの私と対峙した時のように、悲痛な想いを込めて彼の言い分を思いっきり否定した泉様に対し、楓さんはそれを最後まで聞かずに冷静な態度で反論する。
しかも、その言葉から楓さんの想いがよく伝わってきて、泉様はそれ以上何も言う事が出来なくなり、開こうとした口を閉じて視線を足下へと落としてしまった。
今日は休日とあり、園内はお昼を過ぎた時間帯でも家族連れやカップル達で賑わっていたけど、その中で私達は終始無言のまま噴水のある所まで向かう。
程なくして目的地に着くと、そこには既に泉様の姿があり、ベンチに座って何をするでもなく遠くを眺めていた。
「…………あ」
すると、ふとこちらの存在に気付いた泉様は楓さんの姿を目にするな否や少しだけ表情が明るくなるも、その隣で立っている私にも視線を向けた途端、一気に顔付きが険しくなった。
「久しぶりに楓さんから連絡があったので、期待していたのですが……。まさか、あなたまで一緒だったとは……」
それから、敵意剥き出しで私を睨み付けると、泉様は深い溜息を吐いてその場から立ち上がる。
「酷いです。その女を好きになる事は百歩譲って認めますけど、私にそれを見せ付けに来たのですか?そんなに私の事が嫌でしたか?」
そして、今度は目に涙を浮かべながら縋り付くように楓さんの方へとにじり寄ってきた。
見ると以前会った時よりも少し顔がやつれていて、薄らと目にクマが出来ている。
やはり、婚約破棄されて以降相当なショックを受けていたのがその表情からでもよく分かり、泉様の気持ちが痛い程理解できる私は胸の奥がキリキリと痛み出す。
「違う。今日は謝りに来たんだ」
そんな取り乱す泉様とは裏腹に、楓さんはとても落ち着いた様子で彼女の目をじっと見据えると、静かにそう答えた。
「……え?か、楓さんが私に?」
それが泉様にとってはかなり驚きだったようで、目を丸くしながらその場で狼狽え始める。
「今まで泉が俺をどう想っているかなんて全く興味がなかったけど、前に美守に言われて分かったんだ。……だから、お前の気持ちを無下にして振り回した事は本当に申し訳なかった」
けど、楓さんは気にする事なく真剣な表情で真っ直ぐと自分の気持ちを伝えた上に、深く頭を下げてきたので、泉様は勿論のこと。私までその姿に驚愕してしまった。
これまで私も楓さんには何度か謝られた事があるけど、ここまではっきりと謝罪の言葉を述べて頭を下げるのは初めて見た気がする。
泉様は暫く口を開けたまま固まっていたけど、強張っていた顔が緩み始め、徐々に穏やかな表情へと変わっていく。
「驚きました。まさか、楓さんがそこまで私の事を気にして下さっていたなんて。今まで全く見向きもされなかったので、破談されてもきっと何事もなかったように見捨てられて終わるんだとばかり思っていました……」
それから声を震わせながら、おそらく今度は違う意味での涙を浮かべて、泉様は彼を愛おしそう目で見つめた。
確かに、以前の楓さんなら十分あり得る話だったかもしれない。けど、今はこうして泉様に対する誠意をしっかり伝え、思い遣りを示している事に、私も軽い感動を覚えた。
「…………好きな人間に裏切られるのは、想像しただけで怖くて辛いから……」
すると、ポツリと寂し気に小声で呟いた楓さんの独り言が耳に入り、軽いショックを受けた私は咄嗟に彼の方へと視線を向ける。
しかし、直ぐまた凛とした表情に戻ると、何やら私を一瞥してから再び視線を泉様の方に戻した。
「それに、例えこのまま結婚に結びついてたとしてもお前にとっては何の特にもならないし、むしろマイナスだ」
そして、力強くそう断言してきた事に、泉様はまたもや戸惑いの目で彼を見上げる。
「そ、そんな事はありません!私は、私の存在が楓さんにとってプラスになれればそれで十分なんです。だから……っ!」
「十分なわけないだろ。愛されない事がどれだけ寂しくて、悲しいか、今の俺なら痛い程よく分かる」
拳を握りしめ、いつぞやの私と対峙した時のように、悲痛な想いを込めて彼の言い分を思いっきり否定した泉様に対し、楓さんはそれを最後まで聞かずに冷静な態度で反論する。
しかも、その言葉から楓さんの想いがよく伝わってきて、泉様はそれ以上何も言う事が出来なくなり、開こうとした口を閉じて視線を足下へと落としてしまった。