3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
そこから流れる長い沈黙。
私も一向に口を開こうとしないお二人を隣で見守っていると、俯いたままの泉様の肩が突然震え出し、静かな空間に小さな笑い声が聞こえ始めた。
「……本当に変わりましたね。今でも信じられないくらいです」
それから、徐に顔を上げると苦笑しながら少し皮肉混じりにそう言うと、不意に私の方に視線を向ける。
「これも全部あなたがそうさせたと言うのなら、それこそ私が入る隙なんて、始めから何一つなかったんですね……」
まるで全てを悟ったかのような目で私を見つめた後、やんわりと口元を緩ませてからそう語り掛けてくれると、泉様はとても穏やかな表情で再び楓さんの方へと視線を戻した。
「……泉。俺が言えた義理じゃないけど、お前もこれ以上縛られないで、自分の幸せをよく考えろよ」
そんな彼女に対し、楓さんはいつになく優しい顔付きで諭してきたことに意表を突かれたのか。泉様は目を大きく見開くと、次第にその瞳は憂いを帯びてきて微かに揺れ始めた。
「それは自信ないです。私の全ては楓さんだったので……」
同じ彼を愛する者同士、彼女の言い分には激しく同意したいところだけど、楓さんの言うとおり、泉様もしっかりと自分を愛してくれる人を見つけて欲しい。そんな強い願いから気付けば私は彼女の手をぎゅっと握りしめていた。
「そんな事ないです。幸せはきっと他にもまだ沢山あります。泉様を愛して下さる方だってきっと現れます。だから、決めつけないで下さい。どうか、この先の可能性を信じて自分をもっと大切にして下さい」
なんとも無責任で、とてもありきたりな言葉なのはよく分かっている。
けど、いつの間にやら泉様に言っているつもりが、段々と以前の楓さんに向かって言っているような錯覚を覚え、必要以上に熱が入り込み、つい力説してしまった。
「……まあ、そういうことだ。この俺が出来たんだから、お前ならもっと簡単に出来るはずだろ?」
すると、突然楓さんは自傷気味に笑い、私の言い分を後押しして下さると、そんな私達を呆然と眺めていた泉様の表情に再び明るさが戻り始めていった。
「そうですね。きっと美守さん以上の人を見つけてみせますよ」
そして、少し挑戦的な態度でそう断言すると、これまで見た中で一番希望に溢れた素敵な笑顔を私達に向けてくれたのだった。
こうして全ての蟠りがなくなり、泉様の再スタートの兆しも見え始めたので、楓さんは最後に別れの言葉を告げ、ここを立ち去ろうと踵を返した時だった。
「待って下さい。今回の件で協定は結局白紙になってしまいましたが、私がなんとかしてみます」
思いがけない泉様の提案に、楓様は驚いたように少し目を見開いて彼女の方へと振り向く。
「お父様は私にとても甘いのです。それに楓さんの事は本当に気に入っていました。だから、私が粘って説得すればきっといい結果が得られると思います」
そう自信満々に語る彼女の目はとても輝いていて、彼の力になりたいと願う彼女の熱い想いがひしひしと感じる。
それは楓さんにも伝わったようで、泉様の方へと向き直すと、一歩近付いてから手を伸ばし、彼女の頭にそっと置いた。
「ありがとう。信じてるから」
それから、満面の笑みで今までにないくらいの心に染み渡るような優しくて温かい言葉を、彼女に言い残したのだった。
私も一向に口を開こうとしないお二人を隣で見守っていると、俯いたままの泉様の肩が突然震え出し、静かな空間に小さな笑い声が聞こえ始めた。
「……本当に変わりましたね。今でも信じられないくらいです」
それから、徐に顔を上げると苦笑しながら少し皮肉混じりにそう言うと、不意に私の方に視線を向ける。
「これも全部あなたがそうさせたと言うのなら、それこそ私が入る隙なんて、始めから何一つなかったんですね……」
まるで全てを悟ったかのような目で私を見つめた後、やんわりと口元を緩ませてからそう語り掛けてくれると、泉様はとても穏やかな表情で再び楓さんの方へと視線を戻した。
「……泉。俺が言えた義理じゃないけど、お前もこれ以上縛られないで、自分の幸せをよく考えろよ」
そんな彼女に対し、楓さんはいつになく優しい顔付きで諭してきたことに意表を突かれたのか。泉様は目を大きく見開くと、次第にその瞳は憂いを帯びてきて微かに揺れ始めた。
「それは自信ないです。私の全ては楓さんだったので……」
同じ彼を愛する者同士、彼女の言い分には激しく同意したいところだけど、楓さんの言うとおり、泉様もしっかりと自分を愛してくれる人を見つけて欲しい。そんな強い願いから気付けば私は彼女の手をぎゅっと握りしめていた。
「そんな事ないです。幸せはきっと他にもまだ沢山あります。泉様を愛して下さる方だってきっと現れます。だから、決めつけないで下さい。どうか、この先の可能性を信じて自分をもっと大切にして下さい」
なんとも無責任で、とてもありきたりな言葉なのはよく分かっている。
けど、いつの間にやら泉様に言っているつもりが、段々と以前の楓さんに向かって言っているような錯覚を覚え、必要以上に熱が入り込み、つい力説してしまった。
「……まあ、そういうことだ。この俺が出来たんだから、お前ならもっと簡単に出来るはずだろ?」
すると、突然楓さんは自傷気味に笑い、私の言い分を後押しして下さると、そんな私達を呆然と眺めていた泉様の表情に再び明るさが戻り始めていった。
「そうですね。きっと美守さん以上の人を見つけてみせますよ」
そして、少し挑戦的な態度でそう断言すると、これまで見た中で一番希望に溢れた素敵な笑顔を私達に向けてくれたのだった。
こうして全ての蟠りがなくなり、泉様の再スタートの兆しも見え始めたので、楓さんは最後に別れの言葉を告げ、ここを立ち去ろうと踵を返した時だった。
「待って下さい。今回の件で協定は結局白紙になってしまいましたが、私がなんとかしてみます」
思いがけない泉様の提案に、楓様は驚いたように少し目を見開いて彼女の方へと振り向く。
「お父様は私にとても甘いのです。それに楓さんの事は本当に気に入っていました。だから、私が粘って説得すればきっといい結果が得られると思います」
そう自信満々に語る彼女の目はとても輝いていて、彼の力になりたいと願う彼女の熱い想いがひしひしと感じる。
それは楓さんにも伝わったようで、泉様の方へと向き直すと、一歩近付いてから手を伸ばし、彼女の頭にそっと置いた。
「ありがとう。信じてるから」
それから、満面の笑みで今までにないくらいの心に染み渡るような優しくて温かい言葉を、彼女に言い残したのだった。