3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜

その後、泉様と別れて帰路に着く頃には気付けば時刻は夕暮れ時をさしていて、長いようで短かった一日が終わりを迎えようとしている。

これで本当に楓さんのしがらみが全て取り除かれたのかと思うと何だか感無量になり、ちょっとでも気を緩ませると目頭が熱くなってしまう私は、何とか溢れる気持ちを抑えながら平静を保ち続けた。

「楓さん、今日一日お疲れ様でした」

車に乗り込み、走り出して暫くしてから、私は想いを込めて隣で静かに運転をする彼に心からの労いの言葉を捧げる。

「ああ。美守もな」

それを笑顔で受け止めてくれた楓さんは私を一瞥すると、左手をハンドルから離し、膝に置いてある私の手の上にそっと重ねた。

「今回は付いて来てくれて本当に助かった。お陰で色々と覚悟していた事が全部洗い流されたよ」

そして、とても穏やかな表情でそう語る楓さんの横顔を見て、私は改めて彼がどれだけの重圧を一人で抱え込もうしていたのかがよく分かり、それを阻止できた事への達成感と安心感で心が満たされていく。

「それなら、今後はもっと私を頼って下さい。これから私達は長い付き合いになっていくのでしょうから」

そのまま思った事を口に出すと、まるでプロポーズでもしているような言い方になってしまい焦りを感じたけど、これが本心なので仕方ないと割り切った私は、笑顔で彼を見上げた。

「そうだな。もう縛られるものはないし、これからはずっと……」

すると、楓さんは微笑んだ途端急に真顔になると、そこから黙り込んでしまい、一体何があったのか訳が分からない私は心配になって彼の顔色を伺う。

その時、楓さんは突然進路を変更して、自宅とは逆方向の道へと走り出した。

「楓さんどうされましたか?まだ何か他に用事でも?」
 
私は益々混乱する中どういう事なのか彼に尋ねてみるも、ずっと沈黙状態で答えが聞けずじまいのまま、程なくして楓さんは何故か大型ショッピングモールの立体駐車場へと入り、ガラ空きとなっている一角に車を停車させ、シートベルトを外した。

そういえば、そろそろ夕食時なので、もしかしたら何処か食べに行くのかと思っていた矢先のこと。
急に楓さんは身を乗り出してきて、私の肩を掴むと、そのまま少し強引に自分の唇を私の唇に重ねてきた。

「んっ……!?」

全く予想だにしていなかったので一瞬目が点になってしまったけど、ゆっくりと味わうように私の唇に何度も絡み付いてくる楓さんの甘いキスによって、あっという間に思考力は奪われてしまう。

「きゃっ」

それから、キスをしたままシートベルトを外され、突如座席の椅子を倒されてしまった私は、驚きのあまり唇を離して軽い悲鳴を上げる。
けど、息を吐く間も無く私に覆い被さってきた楓さんは、またもや唇を奪ってきて、口の隙間から無理矢理熱い舌をねじ込ませてきた。

暫く口内で彼の舌が好き勝手に暴れ、私の舌を絡め取り、吸い付くような深いキスをされていく内に段々と頭が真っ白になり、高揚とした気分へと変わり始める。

「は……あ……、か、楓さんダメです。こんな場所では人に見られちゃいます」

しかし、その感覚に完全に溺れる手前で理性を取り戻し、ようやく唇を解放された私は軽い息切れをしながら少し強めの口調で彼に訴えた。
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