3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
ホテルを出てからものの数分で東郷グループのビルへと到着した私は、ロビーの椅子に座りながら、彼の帰りを今か今かと待ち侘びる。

今日は仕事が早く切り上げられそうだとお昼頃に楓さんから連絡が入り、久しぶりに彼と一緒に帰れる喜びを噛み締めながら、私はオフィスへと続くエレベータをじっと眺めていた。

それから程なくして、エレベーターから楓さんと一緒に百合さんの姿も見えたので、私は舞い上がる気持ちにすぐさま椅子から立ち上がり、早足で彼等の元へと向かう。

「お仕事お疲れ様です。あと、最近百合さんの顔を見れていなかったので会えて嬉しいです」

そして、彼よりも真っ先に彼女の方へと駆け寄り、久しぶりに会えた喜びを私は全身で表現する。

楓さんのバトラーを務めていれば接点はあったけど、今はもう正式に彼の婚約者となったので専属から外れてしまい、楓さんも3121号室を利用することは止めてしまったので、それからは百合さんとの絡みが減ってしまい、なかなか会う事が出来なかった。

「私もだよ。ごめんね、ここのところずっと忙しかったから。また今度ご飯食べよう」

そんな私を百合さんは愛おしそうに眺めながら頭を優しく撫でて下さり、普段は滅多に見せることのない眩い笑顔を向けられた私の頬は、素直に赤くなり始めていく。

「おい。俺の前で気安く美守に触るな」

すると、それを隣で眺めていた楓さんはとても不機嫌そうな面持ちに変わると、嫉妬心丸出しで私の腕を掴むと百合さんから引き離し、そのまま自分の方へと引き寄せた。

「全く、美守ちゃんの事になると器量狭くなりますね。あまり独占欲が強いとそのうち愛想尽かされますよ?」

百合さんは深い溜息と共に軽蔑した目で楓さんに警告すると、その言葉に臆してしまったのか。楓さんは一瞬表情を歪ませてから何かを訴えるような目で私を見てくる。
その仕草が何とも純粋で可愛らしく、私は思わず小さく吹き出してしまった。

「安心してください。私が楓さんを嫌いになるなんて有り得ませんから」

ひとまず彼の不安を取り除いてあげようと、やんわり微笑んでから、私は楓さんの方へと更に距離を詰めていった。

「本当にこんな可愛い奥さんを貰える事に感謝して下さい。もし美守ちゃんを泣かせたらこれまでの悪事を彼女に全部バラします」

「お前は俺らを繋げたいのか引き離したいのかどっちなんだよ?」

やはり何度見てもこのお二人は歪み合いつつも、どこか心を許しているものを感じ、その関係性が何だか羨ましいと思いながら、私は楓さんと百合さんの掛け合いを暫く微笑ましく眺める。


それから百合さんに別れを告げて、私は楓さんの車に乗り込むと、そのまま彼の自宅へと向かった。

軽井沢勤務に決まった時に住んでいたアパートは解約してしまった為、都内勤務へと戻るタイミングで私は楓さんと同棲生活を始める事になった。
そして、結婚しても当分は住居を変えるつもりはなく、この先も自分があの贅沢過ぎる高級タワーマンションに住み続けるのかと思うと今でも信じられない。
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