3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「そういえば、今度の土曜日は丸一日休めるから、予定通り挨拶に行くって伝えといて」
オフィスビルを離れ暫く車を走らせると、ふと思い出したように教えてくれた彼のスケジュール内容に私は安堵の息を漏らす。
「良かったです。それでは両親には話しておきますね。……あと、もし何か粗相があってもあまり気にしないで下さい」
そして、以前電話で楓さんとの結婚についてやり取りした事を思い出し、私は苦笑いを浮かべながら彼の方へと視線を向けた。
初めて彼の話をした時はやはりかなり驚かれてしまい、最初のうちはなかなか信じてくれず、騙されているのではないかと凄く心配された。
もしかしたら、今でも半信半疑かもしれない。
確かに、これまで男性とお付き合いした事がない私が急に財閥家の御曹司と結婚するだなんて、俄かに信じ難い話なのは理解出来なくもないけど、とりあえず彼の事情と経緯を軽く話したら一応納得はしてくれた。
けど、厳格な両親から、もしかしたら顔合わせをした時に楓さんについて色々と探りを入れられそうで気が気でない。
おそらく楓さんならどんな事があっても上手く事を運んでくれると思うので、それに関して不安はないけど、兎に角彼が不快に思うような場面がないことをひたすら祈るしかなかった。
一方、東郷家には先に結婚の報告を済ませており、挨拶に行った時は一度顔を合わせているからか代表も奥様もあっさりと認めて下さった。
その要因の一つとして、以前泉様が提案した通り、あれから浅野家とは再び協定を結び直すことが出来たそうで、目的を果たした東郷家にしてみれば、楓さんの結婚相手はもう誰でも良かったのかもしれない。
それに、初めて東郷家に行った時よりも何だか雰囲気がほんの少しだけ柔らかくなっていたようにも感じ、代表は相変わらず無愛想だったけど、奥様は時折私に笑顔を見せてくれて、その変化に楓さんも私もかなり驚いた。
あとは竜司様はまだ勾留中の為、一応面会はしたものの何の言葉も貰うことが出来ず、ろくに会話が出来ないままそこで終わってしまった。
おそらく、もう少しすれば保釈されると思うので、その時に改めて挨拶に伺うつもりだけど、今後も竜司様と楓様の仲は絶望的なものかもしれない。
結局東郷家の蟠りは全て拭いきれないのが現実であり、それは全部覚悟の上だったので仕方ないと私は割り切る事にした。