3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜


___土曜日。



ついに実家に行く日を迎え、楓さんよりも何故か私の方がガチガチに緊張してしまい、朝から彼とあまり会話をする事が出来ないまま、私達は事前に用意していた手土産を持って自宅を出発した。

「なんでお前の方がそんなに緊張してるんだよ。ご両親はそんなに厳しいのか?」

一向に口数が少なく体を強張らせている私を、スーツ姿の楓さんは運転しながら少し呆れたような目で見てきて小さく溜息を吐いた。

「そこまでではないのですが、これまで男性を紹介した事ないので一体どのように話せばいいのか分からなくて……」

「どのようにって、俺達の馴れ初め話でも話せばいいだろ」

これから紹介される張本人だというのに、まるで他人事のような彼の神経の太さに相変わらず感心してしまう。

とりあえず楓さんの言う通り、どんなに恥ずかしくても彼への愛情を理解してもらうことに全力を尽くそうと気合いを入れていると、そうこうしているうちにあっという間に実家へ到着してしまった。


これまでも実家に帰ることはあまりなく、行ってもお盆や年末年始くらいで、今回も数ヶ月ぶりの帰省だった。

父親は製薬会社に勤めていて、母親は茶道教室の講師をやっており、一人っ子である私の躾は基本母親が全て担っていたので、どちらかといえば父親よりも母親の方が厳格かもしれない。

けど、性格は二人とも温厚なので、きっと楓さんを悪く言うようなことはしないと思うけど、やはり不安は拭いきれなくて、私は震える指でインターホンを押す。

それから程なくすると玄関から着物姿の母親が出てきて、私はそこで背筋をピンと伸ばした。

「お待ちしておりました。遠路はるばるお疲れ様です。とりあえず、どうぞ中へ」

間髪入れずに母親は私達を招き入れたので、一先ず言われるがまま私達は家の中へ入り、そのままリビングへと向かった。
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