3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
その時、不意に掴まれた肩を勢い良く引き寄せられてしまい、私はバランスを崩して思わず楓さんの胸の中に倒れ込むと、そのまま包み込むように私の体を抱き締めてきた。

「か、楓さん!?ま、まだ家の敷地内ですけど……」

気持ち的には凄く嬉しいけど、万が一両親に見られてしまったらそれは流石に恥ずかし過ぎるので、私は弱々しく訴えてみる。

「……るから」  

「え?」

すると、ポツリと小声で呟いた言葉がよく聞き取れなくて、私はもう一度聞き返そうと顔を上げると、真剣な表情でこちらを見据えてくる楓さんと目が合った。

「家族がどういうものなのか俺にはよく分からないけど……。でも、寂しい思いは絶対にさせない。美守も、子供も全力で俺が守るから」 

そう必死に訴えてくる彼の強い眼差しから切実な想いがひしひしと感じられ、私はまたもや涙腺が緩み出しそうになってしまう。

「分からない事は私が色々と教えます。だから、一緒に守っていきましょう」

そして、また彼一人が全てを抱え込むことのないよう、私の気持ちもしっかりと分かって欲しくて、笑顔で抱きしめ返した。


暫く流れる穏やかで優しい時間。
今日という大事な日に改めてお互いの想いが再確認できたような気がして、更に愛しさが増していく。



「…………美守。もう一人俺達のことを伝えなくちゃいけない人がいるんだけど、付いて来てもらえるか?」

「えっ?それは誰ですか?」

何やら神妙な面持ちで唐突に尋ねられた私は、他に思い当たる人物がいない為、よく分からず首を横に傾げる。

「まあ、行けば分かるから」

けど、楓さんは私の質問に答える事なく何故だか苦笑いで誤魔化されてしまい、その反応に益々困惑してしまうけど、一先ず私達はそまま車に乗り込んで実家を出発することにした。


そのから行き先不明のまま、とりあえず全てを一任してしまったけど、楓さんの表情は一向に強張っていて口数も減ってしまい、そんな彼の異変に何だか心配になってくる。

まるで何かに緊張しているような。
私の実家に行く時だってこんな風にはなっていなかったのに。でも、東郷家に行く時のような殺伐とした雰囲気とも違う。楓さんをそうさせてしまう方とは一体誰なのか。行けば分かるとは一体どういう意味なのか。
目的地へと向かっている間、私は色々思考を巡らしていると、ある人物に行き着いた。

もしかして、伝いたい方って……。

そう思うと、もうそれしか考えられなくなり、私は再び彼の横顔を一瞥する。

もし、そうだとしても何故こんなにも緊張しているのかが分からない。
話すにしたって一方的にしか出来ないのに……。

結局疑問は解消されることなく、かれこれ一時間くらい車を走らせていると、私達は住宅街から外れた小さなお寺に到着し、楓さんは車から降りた後、トランクを開けて黒い大きな布袋を取り出した。
それから彼は何やら本堂をじっと眺めると、深いため息をはいてからトランクを閉める。

「楓さんどうしたんですか?お母様のお墓参りなのに顔色が良くないですよ?」

むしろ、せっかくの結婚報告であるならもっと晴れやかな気持ちになってもいいくらいなのに、ましてや大好きなお母様であるなら尚更。
それなのに、まるで何か怯えているようにも見え、話してくれるまでは待とうかと思ったけど、堪らず私は楓さんに質問してしまった。
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