3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
……信じられない。

てっきり左遷かクビかと思ってたのに、まさか専属バトラーをご指名されるとは。

そもそも、東郷様クラスでバトラーサービスを受けていらっしゃらなかったのも驚きだけど、何故失礼な態度をとってしまった私なのか理解出来ない。

しかも、バトラー経験なんて皆無なのに、一体どうすればいいのか、考えただけでも不安で押し潰されそうになる。


何はともあれ、一先ず昨日の出来事は御子柴マネージャーにもご報告しなければと、私は包み隠さず事情を御説明した。


「驚いた。まさか、君がそんな感情的になるなんて……」

私の話を全て聞き終えた御子柴マネージャーは、怒るわけでもなく、ただ唖然とした目で私を見た。

その視線に私は再び自責の念に苛まれ、視線を自分の足元に落とす。

「……まあ、君がそうなるのも無理ないかもしれないけどね。とりあえず、専属バトラーに指名されたのであれば楓様の事情を君にも伝えとくよ」

すると、咎められるかと思いきや、むしろ同情して頂いたのと“楓様の事情”という言葉に反応した私は、勢い良く頭を上げる。

「楓様は二人兄弟の次男だというのは承知だと思うけど……実は婚外子なんだよ。母親は楓様が七歳の時に病で亡くなってしまって、そのまま東郷家の一員となっているんだ。だから、一族の中ではかなり浮いた存在になっててね……」

そして、まさかの衝撃的事実に、私は空いた口が塞がらなかった。

「それでも、かなり優秀なお方で、担っている仕事も親の力には頼らず、ほぼ自分の力で成り上がった程にね。だから、東郷家にはあまり関わらず、心を開くこともせず、我が道を行く。正に一匹狼みたいなお方と言うべきかな」

そう暗い表情で打ち明けてくれた楓様の裏事情に、私は返す言葉が見つからず呆然と立ち尽くしてしまい、暫しの間沈黙が流れた。

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