3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜

まさか、東郷グループにそんな闇があったなんて。

今までの傍若無人な振る舞いに、どれだけ甘やかされていたのかと思ってしまったけど、全くの逆だったとは……。

婚外子でしかも自分の母親はもうこの世にはいない中、父親である東郷代表にどれ程愛されていたのかは知らないけど、少なくとも一族の中では凄く肩身が狭いことでしょう。

これがもし自分なら、とてもじゃないけど、耐えられない……。


「あと、例の女性は婚約者の方だ。まあ、よくある政略結婚だけどね。だから、ご多忙の中ああして合間に時間を作ってお相手していらっしゃるんだよ」

加えて更なる事実を聞かされた私は、自分が昨日言ってしまった事がいかに愚かだったか思い知らされ、ショックのあまり思わず自分の口を両手で塞いでしまった。

「なんていうことでしょう。私、そんな東郷様に“おかしい”だなんて……」

知らなかったとはいえ、それは東郷様に対してあまりにも無神経な言葉であり、益々自己嫌悪に陥ってきた私は体が震えてくる。

「確かに、君がした事は芳しくないけど、本当に許されない事ならもうここにはいない。あのお方はとても厳しくて容赦ないからね。知らないと思うけど、今まで何人の従業員が辞めさせられたことか……」

そう言って宥めるように御子柴マネージャーは私の肩を優しく手を置いてくれると、最後には深い溜息を吐いて遠い目を向けてきた。

「バトラーに指名されたのはかなり驚きだけど、少なくとも君の行いは東郷様にとって特に不快ではなかったという事になるかな。だから、あまり気負いしないで、今までの君らしくしっかりやっていけば大丈夫だよ」

それから、いつもの穏やかな表情へと戻った御子柴マネージャーは、やんわり微笑むと、包み込むような温かい言葉で私を励ましてくれた。

そして、この話は東郷様と深く関わる者だけが知り得る事情という事で、他の方々には軽々しく漏らさないよう念を押されたのだった。