3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
私は桜井さんと別れた後、一人深い溜息を吐きフロントへと足を運ぶと、突然背後から支配人に声を掛けられ後ろを振り向く。

「仕事中にごめんね。後で君に伝えようと思っていたんだけど、丁度いいからここで話すよ」

一体何の話なのか首を傾げると、急に神妙な面持ちへと変わった支配人に、私は何だか妙な胸騒ぎを覚えた。

「実は、担当してもらう階を今日から変更して欲しいんだ。君にはVIP階層をお願い出来ないかな?」


何やら何時になく険しい支配人の表情に、自分が何かしでかしてしまったのかと不安になったけど、全くの見当違いな話に私は密かに胸を撫で下ろす。

けど、言い渡された急遽の配置換えと、厳選された人しか就くことの出来ない階層を任されてしまった重圧に、今度は冷や汗が流れ始める。

「はい、かしこまりました。失礼のないよう、より一層気を引き締めて職務に励んでいきます」

しかし、そんな中でも自分の仕事振りが認められたようで、私は緊張しつつも喜びを感じながら力強くそう応えた。

「いいかい。くれぐれも、どんな事があっても直ぐに投げ出したりはしないようにね」

すると、一向に険しい顔付きを崩すことなく、しかも厳しい忠告をされてしまい、私は頭上に無数のクエスチョンマークを浮かび上がらせる。


VIP階層のお客様は一筋縄ではいかないという意味なのかしら……?

支配人の仰ることがいまいち理解出来ない私は、疑問に感じながらも、一先ず首を縦に振って二つ返事をしたのだった。
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