3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
◇◇◇



——それから迎えたバトラーとしての初日。


短い研修期間が終了した直後、まるでそれを狙ったかのようなタイミングで、業務用携帯に白鳥様から東郷様のスケジュールが送られてきた。

恐る恐る開いてみると、そこには東郷様のチェックインとチェックアウト予定日時の他、滞在中に行うものとして、クリーニングや靴磨き、宿泊中に作成した資料のコピーやらなんやら、あまりの仕事量の多さに圧倒されてしまう。

けど、研修でも教わった通り、これが執事としてのお役目である為、私はこれ以上の失態がないよう、気合いを入れて東郷様をお迎えするために入口前へと向かう。


あれ以降初のご対面の為、緊張感はピークに達するも、気まずさが表に出さないように、営業スマイルを徹する事を心掛けて、東郷様のお帰りを待つ。

すると、程なくして、遠くの方からこちらに向かってくる一台の黒光りしたセダン車。

入口付近に停車した時に見えたベンツのロゴ。

もしやと思い、私は生唾を飲んで車の近くまで歩み寄ったと同時に、運転席側から背の高いパンツスーツ姿の綺麗な若い女性が降りてきた。

すかさず、女性は後部座席へと回り込み、ドアを開けると、そこから同じように黒いスーツ姿の東郷様が降りてくる。

「それじゃあ、荷物は家の玄関に置いといて。明日は部会前にリモートするから後よろしく」

「承知致しました。書類は先方にお渡し済みなので、あとは……」

暫しの間、二人のやり取りを呆然と眺めている私。

すると、こちらの存在に気付いたのか。
若い女性の方と視線が合い、軽く会釈をされると、私の方へと歩み寄ってきて片手を差し出してきた。

「はじめまして。お電話でも一度お話しましたが白鳥です。改めて、これからよろしくお願いします」

やはり電話の時と同じように、声に抑揚がなく、加えて笑顔も全くなく無表情で、内心怖気付ながらも、私は笑顔で白鳥様の手を握り返す。

「はじめまして、天野美守と申します。経験不足なので、至らない点が多々ございますが、楓様に当ホテルを更に快適に過ごして頂くために尽力致します」

そして、あの時言えなかった言葉をお伝えすると、私は改めて白鳥様のお顔を拝見した。

小顔のベリーショートで、切れ長のつり目美人。
年齢は私とそこまで変わらなそうだけど、眼力が強く、オーラもあって、ただ見られているだけでも圧倒されるものを感じる。

見た目だけでもバリバリのキャリアウーマンな雰囲気が良く出ていて、私は暫く白鳥様から目が離せなかった。

「挨拶が済んだなら、さっさと行くぞ」

すると、容赦ない東郷様の冷たい一言で一気に現実に引き戻されると、私は白鳥様から慌てて荷物を受け取り、先を行く東郷様の後を急いで付いて行ったのだった。
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