3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「そのキャリーの中身は全部クリーニングだから。あと軽食は九時ぐらいで。例の資料もその時渡す」
「はい。かしこまり……」
バタン。
返事をし終わる前に部屋の扉を閉められ、その場に佇む私。
……なんなんでしょう。
ここ最近、最後までものを言わせてくれない事が多いような……。
私は暫く3121号室の扉と一人睨めっこをしながら、深い溜息を一つはいた。
白鳥様と別れた後、何を言われるのか冷や冷やしていたけど、まるであの出来事なんて何もなかったかのように、部屋に行くまでの道中、東郷様は私には全くの無関心で、会話も一切なく、今に至る。
何だか拍子抜けした私は、とりあえず仕事に取り掛かろうと、出張先からそのままこのホテルへと帰ってきた東郷様のキャリーケースを引っ張りながら、ランドリールームへと向かう。
普通なら自宅に帰ってゆっくりしてもいいのではと思うけど、東郷様の様子を見る限りだと、そんな時間もないくらいにとてもお忙しそうだった。
御子柴マネージャー曰く、東郷様はあの若さで異例の常務取締役を勤めているらしく、業務量も他より一際多いため帰る暇もないのだとか。
だから、こうしてオフィスビルのすぐ隣にある当ホテルをよくお使いになるらしい。
それだけの事業を抱えていてはお身体を壊されてしまわないか心配になるけど、とりあえず、どんな要求でも応えられるように、自分に出来る精一杯の事をしようと気合を入れ直す。