3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「マジでその反応飽きないわ。本当にどこぞのお嬢様育ちなのか?そんなんでよくホテルマンやろうと思ったな」
そんな様子を見た東郷様は吐き捨てるようにそう告げると、私から離れ、その姿のままリビングのソファーへと腰掛けた。
私は先程からずっと遊ばれている状況と、痛い所を突かれてしまった事に眉間の皺が寄りそうになるのを何とか堪えながら、表情管理に徹して作業に戻る。
そうこうしながらようやく食器を並べ終えると、私は次の指示を仰ぐべく、なるべく直視はしないように彼の元へと歩み寄った。
「東郷様、確かご用意する資料があると……」
「楓」
そして、お出迎えをした時に言われた内容を伺おうとしたところ、すかさず東郷様の不機嫌そうな口調で発せられた一言によって、それは遮断された。
「嫌いなんだよ、苗字で呼ばれるのが。だからあんたも俺を呼ぶなら下の名前で呼んで」
そう言うと東郷様はローテーブルに置いてあった煙草を手に取り、一つ口に咥えると、ライターで火をつけ、遠い目をしながら煙を吐く。
煙草の匂いにも慣れない私は、煙がダイレクトに鼻に入り、思わずむせ返そうになるのを必死に我慢しながら彼の横顔をじっと見つめた。
心なしか、その表情がどことなく憂い気に見えるのは気のせいだろうか……。
その瞬間、ふと脳裏をよぎったある言葉。
それは、御子柴マネージャーに言われた“一匹狼”という単語。
おそらく、東郷様は婚外子であるが故に、東郷家の人間ということに違和感を感じ続けているのかもしれない。
だから、御子柴マネージャーも、白鳥様も役職名ではなく“楓様”と呼んでいた。
確かに、不思議な話だなと思ったけど、そこまで気にはしていなかった。でも、それにはそんな深い意味があったなんて、私は居た堪れない気持ちに拳を強く握りしめる。
「承知致しました。僭越ながら、私もこれからはそう呼ばせて頂きますね」
それから、本人の前で暗い感情に呑まれないよう何とか気持ちを切り替えると、私は軽く一礼をした後、笑顔を向けてそう応えた。
「それじゃ、資料はそのUSBに入っているから。中にあるPDFを各二十部ずつ印刷して明日の朝あのサイボーグ女に渡せ」
すると、東郷様は煙草を咥えながら、広げていたノートパソコンから黒色のUSBを引っこ抜くと、それを投げるようにこちらの方によこしてきた。
……サイボーグ女とは、おそらく白鳥様の事なのだろう。
何とも失礼な例え方に呆れながらも、妙に納得をしてしまった自分の思考を私は無理矢理振り払う。
「かしこまりました。その他にご用件があればいつでもお申し付けください」
そして、バトラーらしく今度は深めにお辞儀をすると、差し出されたUSBを手に持ち、私はそのまま部屋を後にしたのだった。
そんな様子を見た東郷様は吐き捨てるようにそう告げると、私から離れ、その姿のままリビングのソファーへと腰掛けた。
私は先程からずっと遊ばれている状況と、痛い所を突かれてしまった事に眉間の皺が寄りそうになるのを何とか堪えながら、表情管理に徹して作業に戻る。
そうこうしながらようやく食器を並べ終えると、私は次の指示を仰ぐべく、なるべく直視はしないように彼の元へと歩み寄った。
「東郷様、確かご用意する資料があると……」
「楓」
そして、お出迎えをした時に言われた内容を伺おうとしたところ、すかさず東郷様の不機嫌そうな口調で発せられた一言によって、それは遮断された。
「嫌いなんだよ、苗字で呼ばれるのが。だからあんたも俺を呼ぶなら下の名前で呼んで」
そう言うと東郷様はローテーブルに置いてあった煙草を手に取り、一つ口に咥えると、ライターで火をつけ、遠い目をしながら煙を吐く。
煙草の匂いにも慣れない私は、煙がダイレクトに鼻に入り、思わずむせ返そうになるのを必死に我慢しながら彼の横顔をじっと見つめた。
心なしか、その表情がどことなく憂い気に見えるのは気のせいだろうか……。
その瞬間、ふと脳裏をよぎったある言葉。
それは、御子柴マネージャーに言われた“一匹狼”という単語。
おそらく、東郷様は婚外子であるが故に、東郷家の人間ということに違和感を感じ続けているのかもしれない。
だから、御子柴マネージャーも、白鳥様も役職名ではなく“楓様”と呼んでいた。
確かに、不思議な話だなと思ったけど、そこまで気にはしていなかった。でも、それにはそんな深い意味があったなんて、私は居た堪れない気持ちに拳を強く握りしめる。
「承知致しました。僭越ながら、私もこれからはそう呼ばせて頂きますね」
それから、本人の前で暗い感情に呑まれないよう何とか気持ちを切り替えると、私は軽く一礼をした後、笑顔を向けてそう応えた。
「それじゃ、資料はそのUSBに入っているから。中にあるPDFを各二十部ずつ印刷して明日の朝あのサイボーグ女に渡せ」
すると、東郷様は煙草を咥えながら、広げていたノートパソコンから黒色のUSBを引っこ抜くと、それを投げるようにこちらの方によこしてきた。
……サイボーグ女とは、おそらく白鳥様の事なのだろう。
何とも失礼な例え方に呆れながらも、妙に納得をしてしまった自分の思考を私は無理矢理振り払う。
「かしこまりました。その他にご用件があればいつでもお申し付けください」
そして、バトラーらしく今度は深めにお辞儀をすると、差し出されたUSBを手に持ち、私はそのまま部屋を後にしたのだった。